富籤 アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「富籤」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 宝くじの9割くらいの数字が当たっていることを発見した状態で、のこりの1割の数字を見る前に、もし大金が手に入ったらいったいなにをしようか、ということを妙に考えはじめる。真面目な労働の対価を得るのではなくて、想定外のお金が手に入る……ということを、ずいぶん詳細に考え続ける男女の話で、これは……仮想の物語を詳細に書きあらわす、ということにも共通している話しに思いました。小説を作るという構造そのものの仕組みにも似たことが論じられているように思いました。ふつうなら考えられない金のことを考えてみる。すごい物語を描き続けたドストエフスキーが、どうしてギャンブルに夢中だったのかとか、そういうことも想起させられる小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約3秒)
  
追記  ここからはネタバレになると思うんですが……今とまったく異なる人生の展開を思い描くうちに、今ここの生きかたがズレてしまって、男女の間で諍いが起きる。新しい想定が見えすぎる人というのは、見えざる不和や苦労を背負い込むのでは、と思いました。さいごの言葉がほんとに、こんなに苦々しく笑うこともめったにない、と思いました。男のくやしまぎれの悪態というのが、表面上の言葉を突き抜けて、圧倒的なユーモアに到達しているという、絶妙なオチでした。