細雪(17) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その17を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回ちょっと、不思議な描写があって、イギリスに幼い娘がいる、という美しい婦人カタリナの話があって、それがどうも、夕食に招かれたのに、そこに他の家族が一人もいない。料理が出て来るのかと思ったら出てこない、家が美しく家族も多いのに、みょうに部屋の中が狭い、となんだか不思議なんです。ずいぶんまっていると、こんどはあまたの料理が出てくる。「ハム、チーズ、クラッカー、肉パイ、幾種類ものパン、等々がまるで魔術のように一時に出現して置き切れぬ程に並べられた」
 ここから移住者となりディアスポラとして生きるロシア人が、中国や日本の政治について論じはじめるんです。小説の内部で、政治が語られてゆきます。とくに20世紀前半の英国の教育についてが論じられていて、これはこの時代には存在しないことになっていた本だなあと、思いました。
 十五年戦争中に日本で生きるロシア人というのは、発禁だらけの戦争中に、新しい日本人の姿を記す日本人作家と通底しているところがあるのでは、と思いました。言葉の行き先が不明になっている、という問題と、作中の不思議な人間描写には、響きあっているところがあるように思えました。
 この小説は、大日本帝国から発禁処分を受けて発表できなくなったんですけど、谷崎はまったく怖れることなく、そのまま書き継いでいって、戦後にもこの小説を描き続けて完成し、のちの米国やフランスで高い評価を受けているんです。時代を超える文学で、いま読んですごいと思うんだから、当時の人が読んだら破格の作品だったんだろうなあと、思いました。今回は、トルストイの書いた『アンナ・カレニナ』の登場人物と同じ名前だ、と作中に明記されているウロンスキー(ヴロンスキー)というロシア人の挿話が興味深かったです。
  

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)