細雪(41)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その41を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 舞の師匠を見舞う妙子の描写がありました。おさく師匠の訃を聞いた妙子の、心情と行動が記されてゆきました。本文こうです。
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 葬儀も残暑の厳しい日に、阿倍野でほんの小人数で営まれたが、その人達が殆どそっくり居残って隣の火葬場へ送って行き、お骨が焼けるのを待っている間に故人をしのぶいろいろの話が出た。quomark end - 細雪(41)谷崎潤一郎 
 
 この前後の描写が静謐で、これが第二次大戦が終結した敗戦後すぐの二十世紀中盤に「陰翳礼賛」とともに世界中で読まれた日本文学なんだというように思いました。次回に続きます。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

疲労 国木田独歩

 今日は、国木田独歩の「疲労」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……とくになにも起きない人間関係を描写していて、未完の習作のように一頁ほどで途切れてしまう掌編小説です。
 

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(総ページ数/約2頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  推理小説の冒頭ではよくある不穏な人間関係の描写が展開するんですが、この小説ではなにも事件は起きないのでした。行き詰まりの予感と、不吉な気配で締めくくられる掌編でした。ちょっと未来のAIがこの先の話を書いたら、たぶん秀逸な推理小説が展開してゆくのでは、と思いました。
 

じいさんばあさん 森鴎外

 今日は、森鴎外の「じいさんばあさん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 森鴎外の代表作と言えば「高瀬舟」や、史伝小説がいろいろあると思うんですが、今回は昔話と史伝が入り混じったような文体で、1809年の文化六年の老夫婦のことを描きだします。美濃部伊織というおじいさんと、妻「るん」の、不思議な物語です。
「この翁媼おうおん二人の中の好いことは無類である」。「二人の生活はいかにも隠居らしい、気楽な生活」をしていたのですが、二人には壮絶な過去があって、それを繙くところから物語の中盤が始まります。ある偶然から、若き日の美濃部伊織は、妙な逸品を手に入れることになって、これを買うときに無理な借金をして、貸し手との間に不和が生じてしまった……。掌編なんですが、オチがみごとですてきな小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
  
追記  ここからはネタバレですので、近日中に読み終える予定の方は、ご注意ねがいます。美濃部伊織は、金貸し男の無礼が許せずに、刀で切りつけてしまい、罪を犯して流罪となりました。伊織とるんは長らく生き別れとなっていたのですが、徳川家治の御追善によって罪を赦されて、三十七年ぶりに江戸で邂逅し、それから幸福に暮らすのでした。
 

学問のすすめ(12)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その12を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回はスピーチの価値について論じています。まったく同じ内容であっても複製した断片だけでは伝わりにくいのに、優れた人が詩をスピーチすれば「わかりやすく」「人を感ぜしむるもの」となって「限りなき風致を生じて衆心を感動」させる。「ゆえに一人の」意見を「衆人に」速やかに伝えられるかどうかは「これを伝うる方法に」よるところが大きい。
 福沢諭吉は、学問を活用して機能させることを重視していて「活用なき学問は無学に等し」いというように書いています。
 読書をして、心の働きに変化が生まれて、これを活用して学を実践にうつす。観察をして推論をして、新しい考えを作り、人と話して知見を交換し、本を出して演説をして知を広める。学問の実践には、人との交流が重要になってゆく。
 学問をほんとうにする人は、談話や演説をすることが、大切になる。独自に一人で学究をするということと、人と交流して知を広めるという「外の務め」というのをしっかりやってはじめて、ほんとうの学者である、と福沢諭吉は説きます。
 知識量が多く人とも多く交流しても、定見を持っていない学者というのがいるのもまずい、とも書きます。
 学問をする者は、高尚な見識というものを持つべきだけれども、「医者の不養生」とか「論語読みの論語知らず」となってはいけない。実行力とか結果とかが、ともなわない学者が多いとマズい、というように福沢諭吉は書くのでした。酒でも遊びでも淫蕩なところに至るとかいうのは駄目だ、風紀や風俗のことで喧々諤々の言い争いをするというのは愚かだ、という指摘もあってこれは荘子が述べているように、優れた学者の「交りは淡きこと水のごとし」というのが理想、ということなのかと思いました。
 学校や学の評価というのは、風紀や風俗をやたらと取り締まっていて全体的に見た目が整っている、というところでは判断できない。学校の価値は「学科の高尚なると、その教法の巧みなると、その人物の品行高くして、議論の賤しからざるとによる」と福沢諭吉は書きます。これは、大組織や政府にも言えることだ、と書いていました。
 今回は、19世紀後半のインド政府がおちいった困難について論じていました。この国家的危機を学問の力で改善していったのが、ガンディーの思想と実践だったというように思いました。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約3秒)
 
★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 

夢と人生 原民喜

 今日は、原民喜の「夢と人生」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 原民喜は被爆後しばらくのあいだ東京に暮らしていました。若いころ千葉県立船橋中学校で英語の教師をしていて、そのころの平和な日々のことを歩きながら回想しています。原子爆弾と死について記して、この被害を受けなかった妻のことを繰り返し、夢の場面と重ね合わせて描きだしていました。美しい文体が印象に残りました。本文こうです。
quomark03 - 夢と人生 原民喜
  急に湿気を含んだ風が草の葉を靡かすと、樹木の上を雲が走って、陽は翳って行った。すると光を喪った叢の翳にキリストの磔刑の図を見るような気がした。ふと、植物園の低い柵の向に麦畑のうねりや白い路が見えた。と、その黒い垣が忽ち僕を束縛している枠のようにおもえるのだった。quomark end - 夢と人生 原民喜
 
 今回、原民喜はボッティチェッリの「春」に描きだされた美しい顔と、自己の記憶に対する違和感について記しています。夏目漱石も「草枕」でモチーフとした「オフィーリア」の絵画世界も描きだされていました。

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津軽の虫の巣 宮本百合子

 今日は、宮本百合子の「津軽の虫の巣」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 1690年ごろ元禄時代の松前矩広が、大船に乗って津軽の海を渡るところから、この歴史小説は始まるんですが、おもに2つの事柄が主題になっていました。ひどい混乱を生んだ生類憐れみの令と、津軽の宝石のことが描かれるんです。
 「津軽の虫の巣」というのは「青紫の円い小珠」の宝石のことで、なぜ虫の巣というのかというと、その宝石には、小虫が入り込めそうな「小さい白い泡沫」がいくつかあって「名も知れぬ小虫が、はて知らぬ蝦夷の海の底深く、珊瑚の根元にでも構えた巣の様に思われる」これが珍宝として松前藩に献上された。矩広と家老の蠣崎が、これを吟味した。
 これがもしほんとうに瑠璃色の虫の巣である場合は、虫の巣を奪い去ったということで、生類憐れみの令に抵触して、松前藩が罰せられるかも知れない。だが、ただの泡沫をはらんだ宝石であるかもしれない。分からないので、火で炙ってこの宝石を浄化しよう、ということを家老が提案した。火で焼いてみると、珍宝はあっけなく砕け……。
 

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追記  生類憐れみの令は、幼子や病者の人権を尊重するという優れたところもあったのに、その運用を誤って死罪や流刑が頻発した、罰則のとりきめがまちがっていたのでは、と思いました。