実語教

 今日は、「実語教」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 実語教は平安のころに書かれ、江戸時代の寺子屋で読まれていた、子どものための道徳の本で、修身について書いてあります。孔子や経書の教えを要約した本が、実語教なんだそうです。ぼくはこれを読むのは3回目で、初回は漢文の書き下し文でむずかしそうに思えるんですが、内容は優しくて分かりやすいものになっています。繰り返し記されているのは、財宝は消え去ることがあっても、学びは消え去ることが無い、という教えでこれが本文に5回くらい書かれているんです。
「山高きがゆえたっとからず。木るをもってて貴しとす」という一文がなんだか妙に記憶に残りました。
 「悪を見たら、すぐさま去れ」という教えも書いてありました。八正道や三学などの仏教の教えも少し記されています。江戸時代には、いちばんはじめに書を学ぶ時にこれをまず読んだそうです。裕福になっても貧しい環境について忘れることの無いように注意しなさい、と書いていました。いちばんはじめの学びを忘れてはならない、と記されていました。憂いあるときは共に憂い「他人のよろこびを聞いては、即ち自ら共によろこぶべし。」というのが印象に残りました。
   

0000 - 実語教

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 

食慾 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「食慾」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  この小説の舞台になっている火山は、今の日本ではちょっと存在していないかと思うんです。登山者がハイキングのついでに観光できて、火口を目の当たりにできるような、場所です。活火山の溶岩を見つめながら「私」は野口とのこれまでの結婚生活や「木村さん」のことについて考えるのでした。「私」と、その夫の「野口」と、「木村さん」の三角関係が描きだされます。
 

0000 - 食慾 豊島与志雄

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記 夫である野口の欲深さや生臭い匂いを嫌う「私」は、食欲を失ったような生きかたをしていたんですが、噴火口に魅入られた木村さんとの交流を通して、ある変化が生まれます。野口を裏切って「木村さん」と結ばれる未来について夢想し、2人でその可能性について語りあい、「私」は「ただ白痴のような微笑を浮べて」しまうのでした……。

細雪(38)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その38を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 谷崎文学と言えば、現実では考えられないような奇想の事件が起きることが最大の特徴だと思うんですが、今回の「細雪」は日帝の検閲を免れる必要があったので、騒乱を起こさない、現実的な物語になっているんです。大洪水という罹災が起きても、そこで事件らしい事件が起きない、静かな展開になっていました。
 妙子を助けに来た、貞之助と板倉は、洪水のあと泥土で塞がった街を移動して、なんとか家に帰りつくのでした。
 罹災の翌日、家族は運よく穏やかに過ごすことが出来て、体調も数日で治った。水害に遭った妙子には、罹災の恐怖だけ残っていて、雨音に恐怖を感じてしまうことがあった、という記載が印象に残りました。敗戦して空襲が終わったあと、平和になってから読まれた本なのでした。
  

0000 - 細雪(38)谷崎潤一郎

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

X氏の手帳 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「X氏の手帳」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 堀辰雄は1930年代に多くの小説を書いた近代作家なんですが、読んでみるとなぜだかついこのあいだ書かれたような小説になっているんです。堀辰雄は他の作品でこう記しています。
quomark03 - X氏の手帳 堀辰雄
  僕らの方向してきたものは新しい現実主義にほかならない。本当の現実主義は、僕らが毎日触れているためにもはや機械的にしか見なくなっている事物を、あたかもそれを始めて見るかのような、新しい角度と速度とをもって示すことにあるのだ。僕らの作品は一見すると、見知らぬもののごとくに奇異に見えるかも知れない。が、すぐ、それが僕らの日常生活の主題に過ぎないことを発見するに違いないのだ。そしてそれのみが僕らになし得るところの唯一の創造だ。僕らの現実主義と世間のいわゆる現実主義とを混同してはならぬ。「詩人も計算する」よりquomark end - X氏の手帳 堀辰雄
 
 ちょっと調べてみると本作を書くころに、コクトーやラディケをおもに読んでいたそうです。Tensegrity structureを目の当たりにしたような、不思議な感覚におちいる小説でした。
 

0000 - X氏の手帳 堀辰雄

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記   自然界から隔絶したものを平然と書けるというのが、食糧難が減退した20世紀中盤以降の資本主義社会から生じた話しだと思うんですが、堀辰雄だけが50年先の未来に生きていたのでは、と思うような小説を書いているように思いました。

黒壁 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「黒壁」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 泉鏡花と言えば幽寂な日本画の世界に、母や妻への思慕と恋情を描きだす、雅な作家だと思うんですが、今回のは始まりから終わりまで怪談のみを書き記していました。
 金沢の黒壁山の深夜二時ごろ「うし時詣ときまいり」をする妖しい女たちがいる。五寸釘が打ちつけられて穴だらけとなった木木が闇夜の中に浮かびあがるさまが描写されます。この黒壁山に、一人の女が現れます。
quomark03 - 黒壁 泉鏡花
 霜威そうい凜冽りんれつたる冬の夜に、見る目も寒く水を浴びしとおぼしくて、真白の単衣ひとえは濡紙を貼りたる如く、よれよれに手足にまといて、全身の肉附は顕然あらわに透きて見えぬ。うるおいたる緑の黒髪はさっと乱れて、背と胸とに振分けたり。quomark end - 黒壁 泉鏡花
 
 これが主人公の「」の親友である美少年を、呪いつづける女であることが中盤で明らかになります。「かれ」は放蕩の末に家を追い出されていて困っていた。その時に現れた女が「お艶」なんです。かれは「豪商の寡婦に思われて、その家に入浸いりひたり、不義の快楽を貪りしが、」四ヶ月もするとこの不義が祟ってかれは衰弱してしまって「お艶」から逃げ出してしまった。「お艶」はこの愛別離苦が耐えられず……続きは本文をご覧ください。
  

0000 - 黒壁 泉鏡花

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記   さいごには「お艶」の渾身の「うし時詣ときまいり」を目撃してしまいます。「カチンと響く鉄槌の音は、鼓膜をつんざきて予が腸を貫けり」と泉鏡花は記します。ここから、呪詛に冒された二人の男女がどうなるのか…… というところで、結末が記されないままこの小説は幕を閉じるのでした。
   

学問のすすめ(9)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その9を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は、文明論と技術論をいくつか書いていました。すり鉢だけを使っていた時代から、石臼や風車を使って、小麦粉を大量生産できるようになっていった。古人の遺物や先人の技術によって、現代の文明の根本ができた。
 人の活動には二種類あって、ひとつは個人の働きで、もうひとつは人と人の交際によって生じる活動だ、と福沢諭吉は指摘しています。自然界の働きから人が食料をもらい受ける、99%が自然界による働きで、人は1%だけ動いてこの食材というのを得ている。この食糧獲得だけで終わらずに、人間の交際による働きで、学問や工業や法治を盛んにして、人と人の交際を豊かにする、ということが何千年も続けられてきた。食えるようになったのは先祖の活動の結果なので、そこに安んじて自分の生を停止させてはいけない、という指摘がありました。
 古代から未来に繋がってゆく仕事に加わりたい、という感性は、ほとんどの人にあって、人々はただたんに日銭だけを稼ぎたいわけではない、ということを説いています。ゼニ儲けや戦というところに目を奪われずに、それらの活動の内奥にある、古代から未来につながる文明の進展によってもたらされる、変動を捉えよ、学問せよ、というように書いていました。次回に続きます。
 

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する