夏の葬列 山川方夫

 今日は、山川方夫の「夏の葬列」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、はじめ見知らぬ村の葬列を目の当たりにするところから物語が始まるんですが、他人の葬儀のお饅頭を欲しがる、軽薄な少年の奇妙な描写があって、30%あたりの中盤から、意外なことが起きます。読み終えてみると納得のゆく物語展開なんですが、なにも知らずに読んでみると、なんだか唐突な展開で妙なものに思いました。後半で、戦時中に被害を受けた少女がどうなったのか、この記憶と事実を探る男の思惟が描かれます。死にかけた少女がじつはそのあと十数年は生きていたということを知った歓びのあとに、悲しい事実が明らかになります。良い未来と悪い未来を重ね合わせて見ることになる。実体験から少し離れたところで、事態を観察していた作家のまなざしが鋭いように思いました。物語の筋が分からない箇所があったので三回読んでみて、作者の構成の妙に唸る作品に思いました。
  

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怪人二十面相 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「かいじん二十めんそう」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、モーリス・ルブランの「ルパン」やコナンドイルの諸作を連想させるような、探偵と怪盗の対決を描いた少年小説です。作中にもアルセーヌ・ルパンのことについて言及している箇所がありました。
 これが現代化されるにあたって、どういう刷新をするんだろうかというように思うのでした。怪人は存在するのに、どうも目に見えない。怪人は見分けがつかない変装をして、少年だったり秘書の女性だったり老人だったりします。目に見えるのに、正体が見えていない……。振り込め詐欺でのだまし方とか、AIがつくる立体的な偽映像とか、いろいろな幻惑の原形が、江戸川乱歩によって記されるのでした。読んでみると仕掛けがチャチなところがあって子供だましな印象もあるんです。「ピストル」の扱いがとくに玩具っぽい記載で、この近代レトロな雰囲気が、読んでいて魅力的に思いました。「探偵七つ道具」とか、豪邸のダイヤモンドとか、「予告の手紙」とか、あまたの警察官が押しよせる場面とか、驚きの要素が目白押しになっているのが、なんだかすてきな小説でした。
  

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 第一部で怪人が宝石を盗み出し、中盤からはじまる第二部の「美術城」の中盤から、海外渡航中だった、名探偵の明智がやっと登場します。ところがこれが、明智では無い怪人だった。違法薬物の捜査官は、ドラッグ使用者と仲良くなるために、ジャンキーと同じ行動をして油断をさせて状況を探るらしいんですけど、名探偵の明智もじつは、怪盗を油断させるために、盗賊たちとそっくりな行動をするのかもしれない、と思わせる展開でした。怪人と探偵が混交し入れ替わる場面がおもしろく思いました。最後の最後に、博士に変装していた怪人の正体が暴かれ、逮捕されてもあっさり身をくらませてしてしまうのが、みごとでした。これは逮捕後もいつのまにか脱獄しそうに思えるのでした。
 哲学者のクリプキが論じた、言語の謎のことを連想させる、不思議な物語でした。クリプキは「68+57=125」というようないっけん完璧に思える規則も、とつじょ怪人の変装のように、様相を一瞬で変えることがあり得ることを、論理的に指摘したのでした。三十一章にわかれた作品ですが、羽柴家ダイヤモンド篇、「美術城」篇それから国立博物館編という、おおよそ三部で構成された小説でした。

 

少女地獄 夢野久作

 今日は、夢野久作の「少女地獄」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代でいちばんヤバイ作家といえば、まちがいなく夢野久作だと思うんですが、今回は氏の代表作のひとつの「少女地獄」を読んでみました。
 姫草ユリ子の不幸と「地獄絵巻」について「小生」が述べ始めるところから物語が始まります。「彼女は、貴下と小生の名を呪咀いながら」夭折してしまった。読んでいるとなんだか、ホラー映画よりも不気味な内容が序盤から目白押しなんです。
 はじめは、姫草ユリ子との出会いの場面が描かれます。そこでは住むところの無い、可哀想な少女の姿が描きだされるんです。ある病院の医院長である「私」は、姫草ユリ子を雇ってあげる。身体の汚れを落とすと、驚くほどの美少女だった。はじめは可憐で働き者の彼女に満足していたんですが、だんだん妙なことになって来る。真面目な少女の致命的な嘘が膨らみ続ける。姫草ユリ子は真相がばれてしまうと、ひどい状況になってしまうような致命的な嘘を積み重ねるという、おそろしいことをつい好んでやってしまう。年齢も詐称していた、実家も詐称していた、職歴も詐称していた、結婚詐欺師くらい徹底的に嘘だらけだった、その実体を探った「私」は、畏るべき事態に遭遇する。姫草ユリ子の破綻を中盤から後半にかけて追ってゆくという展開でした。ドグラマグラでも思ったんですが、今回も病院の暗部が描かれるのでした。夢野久作は、大病院の巨大な詐称ということに深い関心があったのでは、と思いました。この「少女地獄」の「何んでも無い」は中盤で完結します。後半からは「殺人リレー」や「火星の女」という別の小説が記されています。廃墟にたたずんで、校長先生の不正を暴くために聞き耳を立てている、暗闇の少女の姿がじつに不気味でした。
  

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殺人行者 村山槐多

 今日は、村山槐多の「殺人行者」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 村山槐多は日本中のあまたの美術館に作品が収蔵されている有名な画家で、その槐多が記した小説がこれなんです。槐多はまずこう記します。
quomark03 - 殺人行者 村山槐多
  自分は画家であるが自分の最も好む事は絵を描く事でなくて『夜の散歩である』quomark end - 殺人行者 村山槐多
  
 画家の「自分」がある居酒屋にたどりつくと、なにか騒動が起きている。そこにやって来た客の1人、「いかにも品よき影の見える……狂人と呼ばるる男」と知り合う。この男を連れて、2人で自宅に帰りついた。そして自宅の画室のなかで2人で、じつに謎めいた話しをした。ここから作中作になっていて、この謎の男は資産家の子で、名を「戸田元吉と云う」んです。お金がいっぱいあるので、長らく旅をしていた。
 戸田はこう告白するんです。
quomark03 - 殺人行者 村山槐多
  僕は豊子の事を語り出づる時激しい苦痛なしでは居られない。此最愛の女を僕の此手が殺してしまつたのではないか……決して決して自分は豊子の事が忘れられない。quomark end - 殺人行者 村山槐多
 
 豊子と知り合ってすぐに結婚をして「楽しき新婚生活の一年後の夏」に「豊子の友人の貴族の別荘」を訪れた。案内人は、この山荘ですごすのは辞めたほうが良いと警告するんです。この山にはなんども盗賊が現れていて、事件が起きている。「賊は一種異つた人間で強奪を行ふ時必ず人を殺す、その方法は常に同一で鋭利な短刀で心臓を見事に刺してある、だから未だ曽て一人でも実際に賊を見たと云ふ者がない。見た者は必ず殺されるからである」
 戸田元吉は山奥で、古代の石室を発見するんです。『どうしてこんな山中にこんな貴族的な棺があるのだらう』と思う。棺の奥にさらに縦穴の通路があった……。ここに恐ろしい盗賊がいるかもしれない。ここで思わぬ人と出逢った。殺人行者と呼ばれる男との対話が描きだされました。つづきは本文をご覧ください。
 村山槐多はデッサンが歪であるように見受けられるのに、すごい迫力の作品を数多に残しているのが謎だ、と思っていたんですが、この小説を読んだらなんだか腑に落ちました。神秘的な話しを書くもんだと、驚く作品でした。
 

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神伝魚心流開祖 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「落語・教祖列伝 神伝魚心流開祖」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾の小説と随筆は、とにかく生命力と迫力にあふれていて、ウワッと思う作品が多いんですけど、今回のは昔ばなしっぽい「カメ」という大食い男の不思議な成功譚というか滑稽譚なのでした。
 とにかく腹いっぱい食うためには何でもする馬鹿な男が、山でたらふく山菜を食ったり、食うためにたいそう働いたり、嫁さんをもらったり、食い意地がはりすぎていてだまされたり、という悪食の物語なのでした。「落語・教祖列伝」のなかの「神伝魚心流開祖」のお話しなんです。
 これが書かれたのは、過去数百年でもっとも飢餓が深刻だった時代なんです。いっぱい食うために、魚を追うための泳ぎも上達した。泥沼の底に住む悪食の亀みたいな生きかたを、説く指南書なのでした。作中で「ミソ漬のムスビは、うまいなア!」という発言があるんですが、こんなどうでもいいような記載に、なんだかすごい迫力がありました。
  

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旅の絵 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「旅の絵」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 堀辰雄の文学が近代でもっとも洗練されていて優れた文体になっていると、思うんです。今回の小説は、主人公の「私」が日本に滞在する白人たちのことを書き、とくに目的もなく旅の楽しさを記す、穏やかな旅日記のような作品でした。作中で幾度もハイネの詩集のことを記しているのが印象に残りました。ハイネの詩を読み間違えていた箇所があって、あらためて辞書を引きながら精読をしてみると、予想外の内容で驚愕をした、ということが記されていたのでした。
 

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絵画にも、はじめの印象とまったく異なる秘められた物語が記された宗教画があったりするように思います。