魚河岸 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「魚河岸」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだか妙な小説で、芥川龍之介の代表作に特徴的な、異変というのが見受けられない、地味な作品なんです。俳人と洋画家と蒔絵師という三人が気分よく酔いどれているところで見たことのない洋食屋に入っていった。そこに突然やってきた「中折帽をかぶった客」というのが不気味な男で、友人同士の間に割り込んで横柄に注文をすると煙草をふかしはじめた。これにあてられてしまって、みんな静まりかえってしまって興ざめとなった。それまで楽しくすごしていろいろ語らいあっていたのに急に空気が悪くなってしまった。「話ははずまなかった。この肥った客の出現以来、我々三人の心もちに、妙な狂いの出来た事は、どうにも仕方のない事実だった。」この男の正体は、とくにどうでも良いようなものだったんですが、とにかく気分が沈んでしまった。
 主人公の保吉の書斎にはロシュフコーの格言集が、置かれている、というところで、起承転結もとくになく、物語は終わるのでした。ちょっとロシュフコーが読みたくなって、ネットで調べてみると、ここに代表的な格言と要約がまとめてありました。読んでみると、こんかいの芥川龍之介はロシュフコーの思想について考えながら、この小説を書いたことは明らかだなと、なんだか腑に落ちるところがありました。
  

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第五氷河期 海野十三

 今日は、海野十三の「第五氷河期」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦中戦後すぐの日本SF小説といえば、海野十三のほかほとんど居ないと思うんです。海野十三のSFはレトロな魅力と、おどろおどろしい表現と、戦時思想の影響と、自由な意思と、古い時代ならではの感性とが混じりあっていて奇異な物語となっていて、ぼくはとにかく好きなんですが、今回はある老博士が、地球上にとんでもない氷河期が来るという未来予測をだれよりもいち早く突き止めてしまった。博士は狂っているのか、あるいは地球の天候が狂っているのか……というレトロなSFなのに緊迫した状況が描きだされるのでした。
  

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 ここからはネタバレなので、近日中に読み終える予定のかたは、本文を先に読むことをお勧めします。老博士は大金を使って、地熱エネルギーを応用してこの氷河期を防ぎ、新しいノアの箱船で人々を救おうとしているのでした。はたして氷河期は到来するのかどうか、終盤まで不明なまま物語が進行します。一挙に危機が訪れるのではなく、少しずつ異変が進行する描写が、リアルな問題を予見しているようで、みごとな小説に思いました。

道なき道 織田作之助

 今日は、織田作之助の「道なき道」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……道やぶれた男が、子にヴァイオリンの厳しい教育をほどこす、ちょっと不気味な物語なのでした。これも芸術の道なのかと思う、なんだか愛憎のさかまく執着と苦の絵巻物でした。
 

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謎の頸飾事件 山本周五郎

 今日は、山本周五郎の「謎の頸飾事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 山本周五郎というと時代小説を多く書いた作家だと思うんですが、今回は、ふつうに少年探偵と刑事が出てくる推理小説で、読者対象は小学生という、作品なんです。
 ギリシャの英雄アレクサンドロス大王が使っていたという伝説さえあるダイヤの首飾りが、探偵と刑事のいる屋敷の中で盗まれてしまいます。
 ここからはネタバレなので近日中に読み終えるかたは、本文だけ読んでください。事件の内容はこうだったんです。「女中が何者かに襲われた、そばに女中を殴った棍棒が落ちていた、そして部屋の外に紳士が立っていた、棍棒には指紋があった、その指紋が紳士の指紋であった」この紳士が犯人であるはずなんです。三段論法みたいなものですが、この論法で導き出した答えがまるっきり間違いだった。なぜかというと泥棒がうまいこと偽装工作をして、詐欺を行っていたからです。少年探偵の春田龍介君は、ほんとの犯人は違うのだと宣言します。
「三十分の後、僕はこの事件の主謀者をつれてここへ帰ってきます」 
 そうして少年2人の格闘場面があって、ついに犯人が捕まるんですが、真犯人は料理人に化けた泥棒で、ある紳士の指紋を盗み出して犯人に仕立てあげて、警察が去ったのちに、洗面台に隠しておいた宝石を盗み去るという計画だったのでした。
 

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霊感! 夢野久作

 今日は、夢野久作の「霊感!」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  老医オルデスオル・パーポンという奇妙な医者のところに急患がやって来ます。「サタンの死に顔か、メデュサの首かと思われる」恐ろしい顔つきをした患者なんですが、よく見るとアゴが外れた男なのでした。パーポンは上手いことこれを治してやりました。本文こうです。
quomark03 - 霊感! 夢野久作
 見ると最前の恐ろしい形相はあとかたもなくなっているばかりでなく、いかにも人なつっこそうな二十二三の美青年で、相当の教養を持っている事が一眼でわかる眼鼻立ちであったが、タッタ今老ドクトルに罵倒された驚きが未だ消えぬかして、如何にも不思議そうに眼をみはったまま口をモゴモゴさせているのであった。その顔を見下しながら老ドクトルは大得意の体で椅子の上に反そり返った。
「ハハハハ。イヤ。顎の外れたのは生命に別条はありませんが案外苦しいものでね。おまけに一度外れると又外れ易いものですから、これから余程気をお付けにならんと、いけませんよ。たとえば大きな欠伸をするとか、クシャミをするとかいう時には御注意をなさらんといけません。quomark end - 霊感! 夢野久作
 
ところが、なぜ「立派な礼服を着」た「美青年」のアゴが外れたのか、理由を聞いてみると……
 

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追記  青年はなぜ裁判中にアゴが外れてしまったのか、本文にはこう書いています。「実は私が顎を外した原因というのはアンマリ呆れたからです」「エエッ……呆れて……顎を外したと仰言るのですか」アゴが外れてしまうほどあきれてしまう事件とはいったい何だったのかというと、こうです。
 「天涯の孤児」である双子の「私達」はレミヤ嬢という美少女に恋をしていたんです。
 いろいろあって美少女レミア嬢と、双子のどちらかが結婚をすることになったんです。
 いちおう計画を立てて、3人でひとつの結婚をすることにした……。子どもが生まれたときに、どちらが父親かを科学的に計算して判定して、片方が去るという予定だったんです。ところが子どもが生まれたのは、どちらの双子もレミアと一緒にいない時期だった。最後は裁判や霊感に頼って、オチのほうではこの話を聞いていた医者までもがあきれかえって、アゴが外れてしまった。真相としてはどうも、かなり無関係な男性との赤子だったようです。

予報省告示 海野十三

 今日は、海野十三の「予報省告示」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 海野十三というと、原爆投下当時の日記と、戦後すぐの広島に移住をした親族に関する記載が印象にのこっています。今回のSF小説は、古典SFから現代SFへの変化の先取りをしているような、過剰な文体が魅力の、未来的な戦史が記された、奇妙な小説でした。文体がなんとも新奇で、地球の滅亡した……約2万年後の世界を記してから、時間を少しずつさかのぼって、人類にいったいなにが起きたのかを書き記してゆくのでした。はじまりに遠い未来を記して、中間で6千年後の未来を書き、最後に1947年の日本の実情が記されているのでした。時間のさかまく小説でした……。
 ちょっとほんとにすごいなと思うのは、海野十三は科学的な知識が豊富で、未来についても深い考察をしていて、月面着陸はおそらく「千九百六十年八月八日」に成功するというように書いているんですが、現実には1969年に成功しているわけで、よくこんな未来を戦後すぐに予想できたもんだと思いました。原子力タービンエンジンも第二次大戦が終わった数十年後には実現するはずだと書いていてこれも現実化したわけで、しかも遠い未来にはこの核の利用による被害によって世界の一部が滅びることも海野十三は言い当てているのでした……。本文こうです。「原子エネルギーの活用は幾何級数的に増大される。が、そこに或る種の危機をはらんでいるようである」
 ドイツではハイデガーが原子力エネルギー開発の危険性を1950年代にいち早く考察したんですが、1947年ごろに原子力エネルギーの活用における危険性を明記できた日本人は、海野十三だけなのでは、と思いました。
    

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