土地に還る 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「土地に還る」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 豊島与志雄といえば、レミゼラブルの翻訳が有名で、本業は翻訳家だと思うんですが、あまたの小説を書いています。そのなかでもこの敗戦後の復興の日々を記した「土地に還る」というこの小説は、もっとも代表的なもののように思いました。戦争で顔が爛れてしまった笠井直吉という男の、生きてゆくさまを描きだしています。終盤に「戯れ」と「愛情」ということについて黙考する場面があって、笠井の生きかたに迫力を感じました。田中家との親交や、焼けた土地を耕す場面が印象にのこります。
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  直吉は帽子を投げ捨て、強い陽光の中につっ立って、耕作地を見渡しました。瓦礫や鉄材や雑草の茂みなどに点綴されながら、そしてあちこちの新築バラックに遮られながら、広々とした焼け跡一面に、農作物が勢よく伸びあがっていました。直吉自身の畑地にも、茄子の葉が光り、トマトの実が色づき、胡瓜の蔓が絡みあい、菜っ葉が盛り上り、薩摩芋の根本の土がひびわれていました。quomark end - 土地に還る 豊島与志雄
 
 この前後の物語展開と心情描写が、すてきでした。
  

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悶悶日記 太宰治

 今日は、太宰治の「悶悶日記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
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 月 日。
 月 日。
 月 日。quomark end - 悶悶日記 太宰治
  
 という、空白の日付を15回も使って、太宰治が個人的な日記……のような掌編を記しています。これはいつのことを書いているのか、ちょっと調べてみたんですが、短篇集「晩年」の校正のことを書いているので、1936年の春ごろのことを記した私小説なんです。小説なので虚実入り混じる記載になっているはずなんですが「八年前、除籍された」というのはおおよそ事実で、太宰治は六年前の大学生のころに当時は違法だった共産党の社会運動に参加して、実家から除籍されたそうです。それから太宰は、家族や知人からお金を借りて、文学の創作をしています。最後の日記の一文に、存在しない架空の小説の題名を書いていて、良い作品だとひとりごちています。なんだか20世紀後半の現代美術作品を鑑賞しているような、不思議な印象の小説でした。
 

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一人二役 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「一人二役」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  

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 これは奇妙な小説で、ちょっとネタバレなんですが江戸川乱歩の諸作品にあるような不気味なことは生じず、夫婦の二人がどうも妙なことになる。放蕩男がほかの女に手を出すことに飽き足らず、変装して別の男になって妻を口説いて妙なことになるという……だまし絵か、トリックCG動画でもみているような気分になる小説でした。オチの一言が軽妙でした。

夢の国 宮原晃一郎

 今日は、宮原晃一郎の「夢の国」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  これはなんだか、ほとんど誰も知らない和製の童話で、読んでみると中盤にでてくる、3つの「お土産」のなかから最後のお土産だけを持ち帰りなさい、という話しが印象に残りました。最初の2つは、いっけんすてきに見えて、なんの意味も無いものなので持ち帰るべきでは無い、最後の3つめのものだけはみすぼらしくてもそれを持ち帰りなさいという話しでした。そこから先、奇妙なことが起こります……。
   

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これは夜に見る夢の中でのできごとを書いているんですが、後半はなんだかさっぱりよく分かりませんでした。絵本では、文章がよくわからないのがなんだかおもしろい、そういう名作があまたにあると思います。これはかんぜんに幼稚園とか小学校低学年に向けて書かれた童話なんだと思います。手塚治虫の書いた本に、夢オチの物語は良くない、というのがあって、僕は子どものころにこれを信じていたんですが、手塚治虫がもっともこだわった文学者にドストエフスキーが居て、じつはドストエフスキーはみごとな夢オチの数々を記しているんです。ドストエフスキーの場合は、夢オチは中盤に出てきて、伏線として夢での出来事を書いて、そこから現実に起きる異変についてより深く論考してゆくという展開が多いんです。おそらく文意としては、夢オチを描くのならこだわって描きなさい、ということなんだと思うんです。調べてみると手塚治虫は「わるい4コマ漫画の例」として「なんでも夢のオチにしてしまう」と記していました。今回の作品を読んでいて、手塚治虫が夢オチを批判したのは、この話しに似た童話を読んで、こういう物語は良くない、と考えたのでは、と思いました……。

予謀殺人 オースティン・フリーマン

 今日は、リチャード・オースティン・フリーマンの「予謀殺人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは古典的な推理小説で、叙述トリックは存在しないんですが、理詰めで犯人を推論してゆくという物語でした。
 犯行の動機と場面描写が納得のゆく内容でした。こういう事件と捜査は、いろんなところで繰り返し起きてきたんだろうなあと思いました。物語の序盤……犯人のペンベリーは若いころから犯罪者で、いちど犯罪を辞めて商売で大成功して里帰りするんです。この男のもとに軽率な脅迫者がやってきて……。つづきは本文をご覧ください。
  

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追記 ここからはネタバレなので、未読のかたは本文を先に読んでみてください。犯行現場と遺体の目撃者と、隠れ蓑に使った木と、犯人の匂いをしらべる警察犬の場面の描写に迫力がありました。濡れ衣で捕まった警察官エリスの冤罪をはらすんですけど、推理の中心には、細工された二本のナイフと、匂いと捜査を攪乱する動物の血や「じゃこうの香水」というのが、ありました。犯人の奸計がすみずみまで暴かれるのが印象に残りました。現実にはもっと泥くさい聞き込み捜査でなんとか冤罪が晴れるのでは、とか思うんですが。最後の最後の、犯人のその後のありかたの描写が、なんともかっこいい小説でした。さいきんhuluで「刑事コロンボ」を見ていて、オチが分かりきっている話でもじゅうぶん楽しめることがあるんだなあとか、思いました。
 

電気鳩 海野十三

 今日は、海野十三の「電気鳩」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代のSF作家というと、ジュールヴェルヌと海野十三がいろんな作品を書いたと思うんですが、今回のは少年が主人公の小説で、おもいっきり戦争中の冒険譚なんです。日本語をしゃべる「わる者」の男たちがおおぜい押しよせてきて、主人公の少年はさかんに逃げ回って、スパイたちの秘密の活動の謎を解き明かすという……。海野十三の作品の中でもけっこう荒唐無稽で、行き当たりばったりの展開なんですけど、少女をなんとか助け出そうとする主人公の奮闘が、なんだかかっこいい、小中学生向けの物語でした。主人公の父は科学者で、秘密兵器を開発しています。日本軍が地底戦車を極秘に開発している、この実体を暴こうとして「わる者」たちが画策してるのでした。海野十三の少年向け作品に描かれる、少年とスパイと軍、という描写がなんだか迫力がありました。主人公の少年は、奪いとった電気鳩を調べてみて、自分の味方にしてしまうのでした。
 

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