文字禍 中島敦

 今日は、中島敦の「文字禍」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 中島敦というと、日本を離れて海外に長らく在住し、パラオで語学と教育を研究した、中国文明に詳しい文豪という、印象なんです。その中島敦が、文字と精霊について論じているのですが、これがなんだか重SFというか本格SFみたいな、不思議なことを書いているんです。
 これは……すごい本で、中国の一流の学者がSFを書いたことがあってそれを和訳したものとか、医学者が遺伝学についてSF小説内で論考したとか、そういうレアなSF作品としても、読めるように思いました。
 具体的には、精霊と言語について論じています。そもそも言葉や視覚で表現できないところに、霊という存在があるはずで、言葉そのものに霊が潜むかどうかというのは、太陽に水があるのかとか、水と油が混じるかどうか、というくらい奇妙な乖離のある問いに思います。あまたの精霊の中に、はたして文字の精霊はあるのかどうか。アッシリア文明の老博士の視点から、この謎が追究されてゆきます。
 文字をしらないで生きた人が、文字を憶えてから、どのような変化があったのか、現地調査をするのです。文字を憶えてしまうと、霊的な体験は減退するのではないか。
 あるいは言葉というのが全体がそもそも、霊的活動の代替物のようにも思えます。
 プラトンの述べる「洞窟の比喩」のごとき議論も記されています。読み応えのある小説でした……。
 

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ミイラ取りがミイラになるとか、自己言及パラドックスとかいうことを連想しました。

セメント樽の中の手紙 葉山嘉樹

 今日は、葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 労働と貧困とプロレタリアを描きだした文学者として有名な、葉山嘉樹の短編小説を読んでみました。現代にも溶接や高層建築の現場には、この小説に記されているのと同じように事故が起きているんです……。おおよそ百年前の小説には、いまでは常態化して見落とされているものごとが特別なものとして中心的に明記されているので、その部分で勉強になるように思いました。
 

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スミトラ物語 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「スミトラ物語」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 飴売りのスミトラおじいさんが語るふしぎな物語を、豊島与志雄が記しています。手品師5人でサーカスの旅芸人をやっている。その手品がすてきだったので15歳の少年「私」はこれに弟子入りして、諸国を漫遊する。この少年はもともと薬草の研究をしている家の出で、そのために旅先でも薬草を集めて研究をしていた。これで人を助けたりした。旅先で薬草使いとしての才覚が話題となり、海賊に気に入られてさらわれてしまう。海賊たちのねぐらから脱走するにはどうしたものか……。この海賊の首領がほんとに意外でおもしろかったです。豊島与志雄が興味を持っている生き方は、このガルーダみたいに立場を越えて次の時代へと進んでゆく人なのでは、と思いました。こっそり出てゆく、という場面がすてきでした。
 

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蠱惑 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「蠱惑」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 レミゼラブルを翻訳したことで有名な、豊島与志雄の文体がぼくは好きなんですけれども、昼夜逆転したような生活のことを、氏はこう記します。
quomark03 - 蠱惑 豊島与志雄
 私はその頃昼と夜の別々の心に生きていた。昼の私の生命は夜の方へ流れ込んでしまった。quomark end - 蠱惑 豊島与志雄
 
 「私」は謎のおとこを喫茶店で発見した。その男は、自分とほとんど同じような行動をしている。来る日も来る日も、「私」とまったく同じ店で、同じことをしている。ドッペルゲンガーというか自己像幻視のようなもの、それから近親憎悪の感覚を豊島与志雄が描きだしていました。なんだかドストエフスキーの「地下室の手記」と梶井基次郎の「檸檬」が入り混じったような、奇妙な話でした。
 

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F村での春 牧野信一

 今日は、牧野信一の「F村での春」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 F村に住みはじめた、この主人公は夜に眠れずに昼寝ばかりしている男なんですけど、夫婦でなんとか暮らしている。
 欲望の中でいちばん自制のむつかしいのが、睡眠欲なんだそうですけど、ぼくは時間だけは余裕のある生活なので、いつも多めに眠っているんですけど、この作品の主人公樽野はたっぷり時間があるのにどうも睡眠から切り離されている。それでいて昼間は眠気に襲われている。鬱々とした小説なんですけれども、ちょっと観光に出かけてみるところから、妙にすがすがしい描写があり、そのあと男は奇妙な計画を思いつくのでした。
 なんだか水木しげるの「睡眠力」というのを思い出しました。

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スポールティフな娼婦 吉行エイスケ

 今日は、吉行エイスケの「スポールティフな娼婦」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは1930年(昭和5年)の作品なんですけれども、日本に入ってきたアメリカ文化のことを書いています。ぼくはむかし、アメリカ文化が日本に入ってきたのは、1945年の敗戦後すぐの頃からだと思いこんでいたんです。じつは1930年代にはもう、ディズニー映画とかベティ・ブープといったイラストなど、アメリカ大衆文化が日本にかなり浸透していたのでした。この本が書かれた十年後には、あらゆる批判は封殺され、さらには日本国内の殺人事件まで報道禁止になってゆくんです。自由が失われる前に、騒げるだけ騒いでおこう、というような時代の気配を感じました。女たちの快活な様相がおもしろく、ロシアとアメリカと中国の文化が入り混じった、日本の近代都市が印象に残りました。

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