嫁入り支度 アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「嫁入り支度」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、すてきな小説なんです。チェーホフの小説で、これぞ文学だという感じがしたんですけど。……この主人公はさいご、ごく普通の問いを発するだけなんです。その沈黙の表現が印象に残りました。近代ロシア文学にはチェーホフが居る。どうもチェーホフには他にも傑作があまたにあるらしいんです。いつか読んでみたいです。
 

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聖家族 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「聖家族」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 九鬼という男のことを、人々が回想するところから物語が始まります。
 作中にちょっと記されているんですけれども、この物語は、メリメ書簡集やラファエロの画集が、イメージの原型になっているようです。
 後半を読んでいると、ボッティチェリの謎めいた絵画のような幻想的な風景が立ち現れてきて、美しい描写でした。
 堀辰雄は、いま読んでも現代的です。当時読んだ人々はほんとうに驚いたと思います。
 

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趣味の遺伝 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「趣味の遺伝」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 漱石は森鴎外と親しかった。鴎外は軍の要職についているわけで、それが本作に強い影響を与えているように思いました。この小説の序盤に、群衆の万歳によってかき消されそうになっている、ある気配を探っている、主人公はいったいなにを思って軍人たちの凱旋を眺めているのか、読んでゆくと「浩さん」という友人のことが記されてゆく。
 「浩さん」は戦争に行って帰ってこれなくなった。作中で浩さんの母が出てきて嘆く。どうも従軍中に喀血した正岡子規と、その家族の生き方を彷彿とさせるんです。子規のような生き方を志す明治生まれの男に漱石が語りかけている、そのために子規が実現できなかったところのイギリス的な恋愛表現が不幸の描写の後に書き継がれるのではないか、と思いました。
 あと深刻な問題を記しつつ「人間はどこかに泥棒的分子がないと成功はしない」とか「泥棒気のない純粋の紳士は大抵行き倒れになる」とか、他にもあきらかに冗談を書いているところがあまたにあって、それに迫力がありました。
 異聞奇譚である「趣味の遺伝」の謎と、永井荷風の「濹東綺譚」にあらわれてくる謎には、なにかしらの関係性があるんじゃないかとか、いろいろな空想をしました。
 

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走れメロス 太宰治

 今日は、太宰治の「走れメロス」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは太宰治の代表的な作品で、身代わりとなった友を救いにゆく物語なんですけど、太宰治が原典としたのは小栗孝則の翻訳した『新編シラー詩抄』の『人質』という詩だそうです。再読してみると、水や濁流や泉の描写がみごとで、水と渇きの対比が鮮やかな文学作品だと感じました。本文こうです。
quomark03 - 走れメロス 太宰治
  ふと耳に、潺々せんせん、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々こんこんと、何か小さくささやきながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手ですくって、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。……quomark end - 走れメロス 太宰治
 
 ところでシラーの長詩『人質』はここで全文よめるんですよ。なるほど創作というよりも翻訳作品にちかいものだったんだなーとか、太宰治は演劇の舞台みたいに作品を描きだしたんだとか、この「走れメロス」は、太宰の作品と言うよりもシラーの作品という感じがするとか、「メロスは激怒した」というはじまりの文章は太宰治の完全なオリジナルの文章なんだとか、未完の原稿を二校に推敲する時は、太宰はこういう感じで書き直していたのかもしれない、と思いました。
 

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女生徒 太宰治

 今日は、太宰治の「女生徒」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 主人公が朝めざめるところからはじまって、夜に眠るところで終わる物語で、学校帰りの「とうとう道傍の草原に、ペタリと坐ってしまった」とこから帰宅した家の中の描写が印象に残りました。ぼくは「新ちゃん」のことが語られはじめたところから、太宰治の物語世界に惹き付けられました。
 昼すぎから夜になって星が見えるようになってくるにしたがって、神秘的な童話、のような感性にかたむいてゆくのが美しい物語展開に思いました。
 けっこう謎めいた箇所があって「きっと、誰かが間違っている。わるいのは」……という箇所の「あなた」という言葉の示している先が、どうも作中にひとつも存在していなかったりするんです。「世間というのは、君じゃないか」という一文が太宰治の文学の中でとても有名だと思うんですけど、こんかいの作中に四回しるされている「あなた」を巡ることばの示しているものの先の存在感が、なんとも不思議で、終盤が魅力的な小説でした。
 

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夏の花 原民喜

 今日は、原民喜の「夏の花」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 原民喜は、被爆する以前に詩人として長らく活動していて、1945年夏に原爆の直撃を受けて生き残り、その被害を正確に記していったのがこの「夏の花」の内容です。(誤記を一部訂正しました……)原民喜は戦争の被害の事実を克明に記しているので、中盤であまりにも凄惨な描写が続くのですが、行方不明だった中学生の甥が帰ってきた、そのあとの描写を読んでいて唸りました。冒頭では、主人公「私」が、まるで戦争の被害を受けていないころに、亡くなっていった妻の墓を訪れる場面が描かれます。この最初の描写が美しいんです。これが終盤の「N」の彷徨と共鳴していて、読み終えた時に、平和と戦時が二重写しに描きだされて、唐突に現実世界に引き戻されたように思いました。wikipediaの解説が詳細で、参考になりました。また原民喜の小説を読むのなら、広島文学資料室webサイトを併せて閲覧することをお勧めします。
quomark03 - 夏の花 原民喜
  香はしき山々の上にありて獐の
ごとく小鹿のごとくあれquomark end - 夏の花 原民喜
 
 という冒頭の詩の言葉が印象に残りました。
 

0000 - 夏の花 原民喜

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