輝ける朝 水野仙子

 今日は、水野仙子の「輝ける朝」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ぼくはこれを数年前に読んだのですが、今読んでみると、なんだかすごく響いてきました。病と生について、水野仙子は書いています。
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 病氣がかうしてだんだん快くなつて見れば、やつぱり嬉しい。助かつたやうな氣がする。そしてその助かつたやうな氣のするところから、これまでにない命の貴さが感じられる。quomark end - 輝ける朝 水野仙子
 
「思ひもかけぬ青空が」……という小説の一文が印象に残りました。
 

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魔の退屈 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「魔の退屈」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾は戦争中に、いったいどうやって働いていたかというと、映画会社で脚本を書く仕事をしていたのだそうです。そういえば映画会社は当時、軍部からも国家からも重要視されていたので、そのために坂口安吾は戦地の最前線に送られて皆餓死する、という最大の危険性から、回避できていたようです。
 作中に書いているのですが「思想犯で警察のブタバコ暮しを余儀なくされて出てきたばかりであつた」人々は安吾の周りにあまたに居たのでした。
 安吾は黄河を撮る映画の脚本を担当していたのですけど、それはもう敗戦寸前だったため、あきらかに実現不可能な仕事だった。本文こうです。
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  黄河とは如何なる怪物的な性格をもつた独特な大河であるかといふ、歴史的地理的な文化映画の脚本……(略)quomark end - 魔の退屈 坂口安吾
 
 敗戦寸前の状況で中国の映画を作るというのは「全然無意味で、敗戦と共に永遠に流れて消える水の泡にすぎない」と書いているのですが、その無意味だった時間に、黄河の歴史の勉強をしたことには価値があった。時代が変化した時に、その後も役に立つことと、役に立たなくなることとが、ある……と思いました。
 

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イワンの馬鹿 トルストイ

 今日は、トルストイの「イワンの馬鹿」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語に登場するイワンはたしかに馬鹿なんですけど、だれもかれも、全員なんだか間が抜けてるんです。イワンに災いをもたらしにきた悪魔もどこかこっけいです。話し自体がこっけいなんです。本文こうです。
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  ところが、それを年よった悪魔が見ていました。悪魔は、兄弟たちが財産の分け方でけんかをするだろうと思っていたのに、べつにいさかいもなく、仲良く別れて行ったので大へん腹を立てて、早速三人の小悪魔しょうあくまを呼び集めました。そして言いました。quomark end - イワンの馬鹿 トルストイ
 
 ヨブ記のヨブに災いをもたらす魔王は、まさしく悪魔の所行をするわけですけど、このトルストイに登場する小悪魔は、単に面白いことをするんです。苦しめられるはずの三兄弟はみんな王さまになってしまいますし。トルストイというと真面目で堅い文学を作った人だという印象があったんですけど(ぼくは「光あるうち光の中を歩め」をいまだに読み終えられていないです)……この童話は名作であるというだけではなくて、シンプルに笑えるシーンがいくつもあって、楽しいように思いました。
 

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(この本には配慮すべき用語が含まれています。不用意に用語を使われないように充分にご注意ください)
 
 
 
 
 

判決 カフカ

 今日は、フランツ・カフカの「判決」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 カフカと言えば異様な毒虫を描いた物語が印象深いんですけど、もう一方で、楽に実現できそうなことがもろもろの繊細な理由で不能になっている、機能不全に陥っているものごとを書くのが特徴的だと思うんですけど、今回の作品は、カフカの迷宮の一つとして特別な魅力のあるものだと、思いました。すぐ目の前に居る、父と子の意思疎通の不可能さと、はるか遠い地へ行った友人との文通に於ける齟齬の、二つの……このコントラスト。今回のはとくに、すごくテンションの高い物語展開なんです。あっけにとられる親子関係なんです。オチのこの、非現実的すぎる悲劇がほんとにこう、ふつうなら悲嘆に暮れるような人生の人がそうなるところを、カフカはみごとに事態を入れ替えて描いていて、悲劇の逆転した喜劇とでもいうのか、とても不思議な物語になっていました。
 そういえばカフカってずっと独身だったんですね。なんとなく、真面目な公務員をしながら漱石みたいにじつは結婚してたのかなとか思い込んでいました。カフカは結婚出来る条件が整っていたはずなのに、まるで「城」の主人公みたいに、独身から出てゆけなくなっちゃったんだろうかと思いました。
  

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青鬼の褌を洗う女 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「青鬼の褌を洗う女」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾というと、随筆が有名なのですが、今回は戦後すぐの女性が主人公の、小説です。彼女は戦争時代のゴタゴタを回想してゆきます。
quomark03 - 青鬼の褌を洗う女 坂口安吾
 三木昇という映画俳優と友達になった。quomark end - 青鬼の褌を洗う女 坂口安吾
 
 という脇役が登場するさいしょの描写が面白かったです。戦争被害の描写はあきらかに事実に即したことを描いているようで、恐ろしい描写でした。彼女は戦争ですべてを失った。そのあとの文章がこうです。
 「私にとっては私の無一物も私の新生のふりだしの姿であるにすぎず、そして人々の無一物は私のふりだしにつきあってくれる味方の」……という記述が印象に残りました。災後の描写として浮気のことを何度も描きだす、というのが坂口安吾の自然な物語表現だったのだろうと思うんですけど、これは現代の週刊誌でもたしかにそうなのではないかと思いました。
 美醜についてとか、主人公がどうしていつもニッコリ笑うのかとか、平生の無口な人間の言葉の仕組みとかが、作中に事細かに描かれていて興味深かったです。
 

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化鳥 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「化鳥」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 泉鏡花の代表作は、子どもが重大な役を果たしていたりして、子どもから見た世界が描かれていることが多いのだ、と思いました。とくに母と子の交流というのが印象深いんです。
 先生よりも、動物の生き方のほうが智慧があって美しいのではないか、と考える幼子の心理が詳らかに記されてゆきます。母から教えられたことのほうが重大に思える。
 鳥や草木が人間に見える、また人のことを鳥や動物のように感じる。特定の人間を動物に見せかけて表現すると人種差別になると思うんですけれども、泉鏡花の場合は全人類と動物の垣根が取り払われている心理を書いています。
 近代文学の魅力のひとつに、自然界と人類との垣根があいまいで、その描写が現代作品よりも色濃いというところがあるように思いました。
 泉鏡花の物語を読んでいると、世界への認識を見失ってしまったような、幼い頃に迷子になってどこに何があるか分からなくなっている感覚が生じるような気がしました。
 

0000 - 化鳥 泉鏡花

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