野分(5) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(5)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は白井道也が作っている文芸誌を読みながら、高柳君と中野君が、文芸や文化についてのちょっとした議論をしてゆく。
 そのなかで趣味の問題が書かれているのですが、これがすごい迫力でした……。
 趣味なくして「生きんとするは野に入って虎と共に生きんとすると」同じである、という評論があって、そのあとの展開に読み応えがありました。影響力がある人の、趣味の問題について論じているんですけれども、漱石独特の論考が印象に残りました。
 

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野分(4) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(4)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 高柳君と中野君の、クラシック音楽の演奏会を聴きにゆくというなんということもない友だちづきあいの場面が描きだされます。
 手を叩く、拍手……が今回なんだかいろいろ描写されるんですけど、妙に念入りな表現に思いました。最初に高柳君が「山羊の手袋で外套の胸をぴしゃぴしゃ敲き始めた」というところから、クラップの序奏が始まる気がする。古典音楽のような、計算された場面描写を漱石が試みているのでは、と思いました。
 

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野分(3) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(3)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第一話で白井という文学者が登場して、第二話で中野君という秀才作家があわわれた。今回の第三話で、白井先生が中野君の家を訪れるところから物語が始まります。
 中野君は白井先生について奇妙な噂を聞いていて、このことを気にしている。「あなたが、あの中学校で生徒からいじめられた白井さんですかと聞きただしたくてならない」んです。ところがどうも人違いの可能性が高いようである。白井先生は文芸誌の編纂をやっていて、若い物書きの中野君にちょっとした談義をしてもらって、それを文芸誌に載せるために来た。「なにか現代の問題について論じてくれ」というわけです。中野君はとうぜん協力して、言いたかったことを言ってみる。それは近代に於ける恋愛論で、これは若者にとっていちばん重大なことになっている、という話しをする。白井先生はその話をしっかり手帳に記録して、これを文芸誌に載せるというわけです。それで中野君は、かなり熱く「深刻な煩悶」としての恋愛論を語ってみて、白井先生がこの論議についてどう思ったのかを知りたいわけです。「いじめられていた人なのか」イエスなのかノーなのか、「恋愛論についてどう思うのか」イエスなのかノーなのか、と中野君は気になるわけです。
 それで「野分」のカメラワークでは、こんどは白井先生の日常のほうを追いかけてゆくわけですから、中野君がイエスなのかノーなのか気になっている、そこの真相が見えてくるはずなんです。ところがイエスでもノーでもない、どちらでもないような様相が見えてくる。
 白井先生は細君と貧しい生活をしつつ文芸誌の編纂を続けているわけで、恋愛論について熱く論じるような状態じゃ無い。かといって中野君の議論を否定しているわけでも無い。世界を二分して考えても、どうもその二分のどちら側にもちっとも入らない領域というのがあるようで、漱石の物語を読んでいると、あ、こういう人と人との差異があるのかと思って、なんだかおもしろく感じました。
 

0000 - 野分(3) 夏目漱石

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野分(2) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(2)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 12回にわけて、漱石の野分を読んでいるところなんですけど、今回、若い物書きの高柳君とその友人の中野君が登場します。作中の人物解説はこうです。
quomark03 - 野分(2) 夏目漱石
 高柳君は口数をきかぬ、人交ひとまじわりをせぬ、厭世家えんせいかの皮肉屋と云われた男である。中野君は鷹揚おうような、円満な、趣味に富んだ秀才である。quomark end - 野分(2) 夏目漱石
 
 第1話に出てきた白井という文学者は、十数人がかりの子どもたちにいじめられて、学校を辞めさせられてしまった。どうもこれを先導した中学の先生がいるようである。このあたりは坊っちゃんでも描かれたユーモアのある展開も、あるんです。
 ホルマン・ハントの絵画を鑑賞しながら、空想小説を書いたら良い、と親友に語る……。作中で、小説を書く時の考え方を記しているんです。どういう小説を書きたいかというと「痛くっても、苦しくっても、僕の内面の消息にどこか、触れていればそれで満足するんだ」と、このあとの議論が興味深かったです。
 これが漱石の文学論と言えるのか、あるいは無名で間の抜けた若者の頼りない考えなのか、よくわからない。虚実のグラデーションが入り混じっていて、虚そのものでもない、実そのものでもない、曖昧な領域でものの考えが記されていて、そこに魅力を感じました。
 

0000 - 野分(2) 夏目漱石

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野分(1) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(1)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これから12回にわけて、漱石の野分を読んでゆこうと思います。数カ月くらいかかると思います。下記リンクから全文を読むことも出来ますので、そちらもご利用ください。ぼくは漱石の長編を5つくらい読んだんですけど、この「野分」ははじめて読みます。これちょっとすごい作品で、「坊っちゃん」の迫力と、「私の個人主義」といった漱石のじっさいの思想とが、入り混じったような構成で始まります。漱石と言えば、作者と主人公とがずいぶんかけ離れているところにその小説の魅力があって、なにせ処女作は、主人公がどこにでも入りこむ小さな猫だったわけで、それからプー太郎いまでいうニートを主人公にして物語を描くこともあります。今回は、主要登場人物と漱石はかなり近しい人物像に思います。どちらも文学者で……次回に続きます。
 

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論語物語(28) 下村湖人

 今日は、下村湖人の「論語物語」その28を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 論語物語は今回で完結です。
 孔子が広く知られるようになったのは、孔子の没後千五百年くらい経った宋の時代からなんだそうです。孔子が生きた時代から百数十年後に、弟子たちが編纂して孔子の本がまとまった。哲学者の和辻哲郎はこういうように記しています。
quomark03 - 論語物語(28) 下村湖人
 漢の儒学はその孔子理解を通じて漢の文化を作ったのであり、宋学もその独特な孔子理解を通じて宋の文化を作ったのである。が、これらの歴史的発展を通じて魯の一夫子孔子は人類の教師としての普遍性を獲得した。quomark end - 論語物語(28) 下村湖人
 
 孔子の晩年の仕事を、下村湖人はこう記します。
quomark03 - 論語物語(28) 下村湖人
 門人たちに道を説くことのほかに、中国において孔子にゆるされている、ただ一つの仕事は、古典の究明である。政治の実際に当って舵をとるには、彼の智慧は、諸侯の心とあまりにへだたりがあり過ぎた。そして、彼自身でも、彼の中国に対する最後の、そして最上の贈物が、倦むことなき古典の究明であることを、も早や知りすぎるほど知っているのである。quomark end - 論語物語(28) 下村湖人
 
 下村湖人はさいご、孔子と泰山を象徴的に描きだしていました。泰山にはいつか行ってみたいなあと、思うような描写でした。ぼくは「老子」が好きなんですけれども、唐の韓愈によれば、孔子が老子から教えを受けたという説は否定されているのです。ぼくとしては、下村湖人が考える、孔子と老子の出会いの記述は重要に思えました。論語を読み終えたら、こんどは老子を学びたいように思いました。
 

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★『論語物語』をはじめから最後まですべて読む(※大容量で重いです)
『論語』はこちら(※論語の原文に近い日本語訳です)

 それから、0円で読める論語を四冊ぶん集めた論語全集を作りました。このページをお気に入りに登録して原稿用紙千三百枚の大長編を完読してみてください。
「論語全集」は、下村湖人の「論語物語」「現代訳論語」の二作と、和辻哲郎の「孔子」と中島敦の「弟子」、合計四冊をひとつに収録した、論語を学ぶためのアンソロジー電子書籍です。原稿用紙約千三百枚の大容量作品になっています。下村湖人の描く論語物語では、貧しくても「道を楽み」豊かになっても「礼を好む」というエピソードから物語が始まります。
  
【第一巻】「論語物語」下村湖人
【第二巻】「孔子」和辻哲郎
【第三巻】「弟子」中島敦
【第四巻】「現代訳論語」下村湖人
 

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追記
次回から漱石の本を読んでゆこうと思います。