細雪(7) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その7を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 このまえから、ちょっと姉妹で豪華なお出かけをしようというところなんです。そこで雪子のフィアンセ候補の井谷さんのことについて雑談しあったりしています。こんかい気になったのは「一番日本趣味なのが雪子、一番西洋趣味なのが妙子で、幸子はちょうどその中間」という服の趣味の話しで、雪子は和服が好きなんです。奥ゆかしいのか、運が偶然わるかったのか、取り残されてしまいそうな、ところなんです。美人で美しく着飾った姉妹が電車に乗る。美女が3人も目の前に座っているので、見知らぬ中学生が顔を真っ赤にしてしまった……。え? どういう感じ? と思ったらもう次回につづく、となってしまいました。気になった方は下記からいっき読みしてください。ぼくはゆっくり読むことにしています。
  

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(6) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その6を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幸子の子どもである悦子(悦ちゃん)はまだ玩具でおままごとをする年齢で、それにしては日本語をかなり上手くしゃべるので、ちょっと年齢不詳に思います。
 三女の雪子は、この悦ちゃんのことを好きで可愛がっています。結婚して子どもが生まれても、こんなに可愛いと思うことはないのでは、というくらい、雪子と悦ちゃんは、母子以上に仲が良いようです。母親みたいなお姉さんみたいな存在として、姪の悦ちゃんと睦まじいんです。
 両親が幸福な時期に育った幸子は温室育ちで、肝心なところでちょっと頼りないところがあるそうです。三女の雪子が、幸子と悦子の母子のあいだにたって、家庭教師みたいに世話をしているところがあるんです。
 雪子は献身的に、幸子夫婦のために家の仕事をすることもあるんです。
 雪子は、肝心な時期に両親と親交が無かった。ふつうなら夫や子どもとすごす時間も、今のところ無い、いろんな人と深い関わりがあるはずなんですが、雪子はちょうど今なにか深く関わる家族というのが抜けおちているようです。
 この雪子が、こんかい谷崎潤一郎が戦時中に描こうと思った主人公なんだろう、と思いながら読みすすめています。読み方としては正しくないと思うのですが、おそらくウクライナの現代文学でいま、谷崎の細雪のようなすぐれた作品が描かれているところなのでは、と思いました。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(5) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その5を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 言文一致運動が生じはじめたころの作品は、物語の会話文がすこぶる不自然だったと思うんですが、谷崎の小説ではここが上手くて読んでいて楽しいように思います。平安時代の十二ひとえの着物なのか、というくらい着物を着てゆくのになんぎするところの姉妹の会話がなんだかすてきでした。せっかくのめでたいお出かけのはずだからというので、しっかり準備をととのえてゆきたい……。
   

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蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(4) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その4を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第一話にも登場した、雪子の婚約相手を探したがっている井谷(美容院の女主人)が、ちょっと雪子とお見合いてまえの食事会をしたいのだと言って来ます。雪子のフィアンセ候補は、フランス文化にもちょっと精通している瀬越という男なんです。
 この小説は、優雅な文化を描いているところがあると思うんですが、どこかで行き詰まったような苦しいような描写があって、印象的なんです。この本の執筆は、第二次大戦が苛烈になるころに記されたものなんです。1943年から1944年と戦後すぐに、執筆されていったものです。とくに今読んでいる上巻は、陸軍(および内務省)から発禁処分を受けて発表できなくなったあとに、1944年の初夏に書きあげている作品で、戦争中なんです。谷崎潤一郎は、戦争のあとのことを考えて書いているんだと思うんですけど、じっさいには「華氏451度」みたいに原稿が燃えて消える可能性もあったと、思います。20世紀初頭に与謝野晶子の源氏物語の原稿は地震で焼失しているんです。谷崎潤一郎も与謝野晶子みたいに1941年ごろ源氏物語を翻訳しているわけで、そのちょっとあとの1944年に「原稿が消失するかもしれない」というのは感じていたことだと思うんです。この「細雪」上巻を書きあげて私家版を出したのが1944年7月で、そのちょっと前の1944年6月に日本への空襲が来ています。八幡空襲というのです。そこからはもう大空襲が目の前で、そのころ中巻下巻を書いてゆく、当時は空襲中と焼け跡の世の中だと思うんですけど、この物語の序盤にはそういう気配は無いんです。家族の地味な幸福と展望について、三女の雪子がどういうように結婚するのか、を追っていった小説になっています。この時期に、結婚相手はみんな、赤紙で狩り出されて、帰ってくる可能性がすごく低くなってしまっている時代に、戦争のことは抜きにして、どうやって結婚しようか、どうやって家を新しくしてゆくのか、というのを静かに描きだしていて、すごい作品だなと思います。
 農業や工業の発展もあって、運良く幸福に生きられる人は数百年前よりも明らかに多くなっている。けれども当時の多くの女性は、いつ伴侶が戦争で死ぬか分からないという状況でした。雪子は妹の妙子に恋人ができたのを知り、それが順調に進展して幸福になるのを願っているんです……。谷崎が敬愛する漱石も「三四郎」で描いていた、聖書のストレイシープに関連したようなことも今回記されていました。雪子の気持ちは、1944年に取り残されつつあった若い女性の気持ちでもある、と思って読みすすめました。
  

0000 - 細雪(4) 谷崎潤一郎

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(3) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その3を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 奇妙な新聞社から、蒔岡家の駆け落ち恋愛のゴシップ記事が出てしまいます。四人姉妹の妙子が起こした、結婚できずじまいに終わるかというような恋愛の記事が、これが駆け落ち未遂事件みたいなものとして実名で報道されてしまった。現代では芸能人だけがこういう記事を書かれると思うんですが、当時の新聞社は今のSNSみたいに野方図になっていたようです。妙子の駆け落ち未遂事件を新聞社が書くときに、まちがえて、妙子のことを雪子と書いてしまった。書き間違いがあった。これを訂正させたのが、鶴子の夫(辰雄)なのでした。
 板挟みの男、というのがこんかい記されています。蒔岡家の根本を作った父がやり残したことは、末の娘二人を嫁がせることです。この仕事を引き継ぐ、辰雄という男が描かれます。人情味がちゃんとあって心配りのできる美女である、そういう四姉妹であっても、いろいろむずかしい苦しい事態というのが潜んでいるんだなと、見た目の華やかさとは異なる内情があるもんだ、と思う章でした。それで辰雄は、良かれと思って、雪子の冤罪を晴らして、新聞社に訂正させることにした。これがどうも意味が無かった。本文こうです。
quomark03 - 細雪(3) 谷崎潤一郎
 養子の辰雄には、大人しいようでその実いつまでも打ち解けてくれない雪子と云うものが一番気心の分らない扱いにくい小姑こじゅうとめなので、こんな機会に彼女の機嫌きげんを取りたかったこともあろう。しかしその時も当てが外れて、雪子も妙子も彼に悪い感じを持った。quomark end - 細雪(3) 谷崎潤一郎
 
 雪子は妹のことを思って、こう述べています。
quomark03 - 細雪(3) 谷崎潤一郎
  こいさんがひがみ出して不良にでもなったらどうするか、兄さんのすることは万事理窟りくつ詰めで、情味がない、第一これほどのことを、最も利害関係の深い私に一言の相談もせずに実行するとは専横過ぎるquomark end - 細雪(3) 谷崎潤一郎
 
 それから新聞社への対応として、このように下品な記事など取り下げさせるように、ここは金力をつかってしまえばよかったのだと苦言をていしています。
 年下の親族からこのように論理的に批判されてしまっては、これは……つらい。さらには、義理の父親のやってきた、娘をいいところに嫁がせるという仕事も上手くいっていない。縁談がとおのいていっている。板挟みになっている本家の男なのでした。他人ごとだし、気にせず読みすすめたら良いと思うんですけど、なんだかこう、もっと派手で型破りな恋愛話を楽しんで読めるのではと思って読みはじめたぼくとしては、こういう話しだったのかあと、ちょっとこれは、たぶんこれはぼくだったら途中で読むのを辞めちゃっただろう本だなと思いながらいま読みすすめています。準備を終えちゃったので、101話まで全部もらさず読む予定なんですが。従来なら読み通せなかった世界観を読み通せるようになる、というのも、そもそもの文学の魅力のようにも思います……。
 行き詰まりの恋というのが、家の恥なんだと、いうのは古い時代のありかたなんですけど、百年前はそれが当然で、本家の夫はそう考えています。本家の辰雄はこの問題を受けて辞職するつもりでさえあった。雪子と妙子は、本家の辰雄がいやになって、分家のほうの家(幸子と貞之助の家)に寝泊まりすることが増えた。
 谷崎潤一郎のこの小説は戦中に書かれたもののはずなんですが、戦後民主主義時代にも海外に広く受け入れられたという実績のある作品で、時代を超える力がある文学なんです。読んでいて思ったのは、家族の集団としての動きに、独特な迫力があって、架空のものとは思えないリアリティーを感じさせる作品に思いました。新聞記事やドキュメンタリー番組では、事件を起こしていない箇所での交流や一般人の内情を描くのがプライバシーの侵害にあたることが多いわけでこれがたいてい隠されます。よって単一の人物が急に事件を起こした、という現実的ではない構図にならざるをえないので、読んでいて内実が理解しがたく虚に包まれます。
 いっぽうで谷崎の今回の文学は、仮想空間であるがゆえに、家族それぞれの内情や、ゆるやかな時間の流れについて漏らさず描いていますから、そこで家の動きや家族のありさまというのが如実に見えてくるんだと思いました。現実を書くと非現実的になる。仮想を描くと逆にリアリティーが出る、ということが起きているように思います。
 末娘の妙子(こいさん)は、人形作りが巧みで、これが仕事になりつつあって、姉の幸子が気をきかせて、仕事部屋としてのアパートを準備してあげた。妙子は仕事もお金も上手く回りはじめて、好きなものを買って遊んで、タバコを吸ったり、また懲りずにヤンチャをしはじめているようなんです。心配になって調べてみると、妙子は仕事はしっかりやっていて、部屋をりっぱな工房にして弟子に作品作りを教えたりしている。また不倫の駆け落ちの不貞な恋愛かと思われた、妙子と奥畑は、それなりにちゃんとした付き合いをしていて将来の計画もしっかり立てているというはなしが、伝わってきたのでした。
 三女の雪子はちょっと、濡れ衣を着させられて不自由な思いをして、妹や姉への気遣いもあり、いろいろ取り残されてしまっています。
 第三話からもう谷崎文学に魅了されているところです。
 妙子の呼び名である「こいさん」というのは「小娘さん、末娘さん」という意味を含む言葉なんだそうです。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(2) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その2を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 おもな登場人物は……蒔岡まきおか4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)です。
 これまでの展開は、三女の雪子がどのようなひとと結婚をするのか、というのから物語が始まっています。
 谷崎と言えば、美や乱調を描く作家なので、でたらめに読んでみてもきっと楽しいんだろうと思って読みはじめたんですけど、なんだか緊張する内容なんです。小説や物語は、自分と関係の無い他人のことをのんびり観てゆくことができるから、緊張しないで済むはずなんですけど、ホラー映画や大長編文学だとどうもそうはゆかないようです。他人ごとのはずなんですけれども、なんだか緊張して読んでいます。谷崎の筆致に迫力があるから、父の亡くなったのちの四姉妹がどうなるのか、妙に気になってくるのでした。良いところの家柄というのをぼくは体感的にまったく知らないのでそこは共感しにくいんですけど、なんだか衰えてゆく事態に対応しなくちゃいけない、という心理に注目して読んでゆきました。
 父が亡くなるまえに、父のもってきた縁談で結婚をした幸子はそれほど問題なく暮らしているようなんですけれども、雪子はころあいがあわずに、父の晩期に婚約者を紹介してもらえなかった。父の意思を継いでくれたはずの貞之助はどうも上手い縁談を持ちこめなかった。 
 雪子は、古い家柄のぜいたくさを忘れられずに縁談で行き詰まっているところなんです。
 細雪は漱石の文学と似たところがあって、武家や貴族が廃止されていって、結婚や恋愛の形態が変化をした、という感じのことも描いているように思います。本作では、主人公の蒔岡家は十数年以上むかしの大正時代に豪商のお金持ちで良い家柄だったそうです。作中で脇役の男性がこう述べるのが印象に残りました。
quomark03 - 細雪(2) 谷崎潤一郎
  蒔岡さんと私とでは身分違いでもあり、薄給の身の上で、そう云う結構なお嬢様に来て戴けるものとも思えないし、来て戴いても貧乏所帯で苦労をさせるのがお気の毒のようだけれども、万一縁があって結婚出来るならこんな有難いことはないquomark end - 細雪(2) 谷崎潤一郎
 
 こういう縁談がどうも上手く進まず、雪子はちょっと時代に取り残されているような感じがあるんです。これは書かれた年代も舞台も十五年戦争が悪くなってゆくころで五年後には豊かさが世間から排除されてゆく時代なんです。ぼんやりとした理由で、幸福が遠のいてしまっているけれども、なんとか豊かに生きようとしている。そこは現代に読んでも響いてくるところに思いました。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)