失敗園 太宰治

 今日は、太宰治の「失敗園」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治ほど独自性があって唯一無二の近代作家は居ない、戦時中の日本でこんなに正直な小説を書けて戦後にも読まれた人は他に類をみない、と思うんですけど、その独自性の秘訣を調べようとして見てまわっていると、けっこういろんなものをコピー&ペーストしているんです。著作権の概念がまだ確立していない時代ですし。太宰は複製の名手でもあるんです。「走れメロス」は半分以上がシラーの原典通りに記されていますし、今回のは、ジュール・ルナールの「博物誌」という詩集の中にある幾つかの詩を真似ていて、太宰治自身がそのことを作中にちょっと記しています。
 岸田國士が翻訳したルナールの「博物誌」では、蜜蜂や植物たちが話しつづける不思議な詩がありました。木苺はこういうことを言います。
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  なぜ薔薇には棘があるんだろう。薔薇の花なんて、食べられやしないわquomark end - 失敗園 太宰治
   
 ここから先、小さなささやきを幾重にも積み重ねていっているルナールの詩が展開するんです。林檎の木がおとなりの梨の木に言うことも面白かったです。
 

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人民のために捧げられた生涯 宮本百合子

 今日は、宮本百合子の「人民のために捧げられた生涯」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 宮本百合子は「世界に類のない日本の治安維持法は、昭和三年に制定され、撤廃される二十年末までの十七年間に、約十万人の優秀な人々を犠牲とした。」と記します。戦中には本の発禁も多かった。宮本百合子は四十年代の戦後の随筆が印象的で、この時期には、漱石や子規のように、短い期間に密度の濃い執筆をし続けたように思います。この短い随筆は、尾崎秀実ほつみについて論じたものです。尾崎氏のことはぼくははじめて知りました。アメリカのジャーナリストであるアグネス・スメドレーという女性と親密になって日露および日米間の和平的交渉の実現を目指していて挫折した、不思議な男の書簡集、その紹介文がこの「人民のために捧げられた生涯」というごく短い作品です。尾崎秀実は第二次大戦中に、ゾルゲのスパイであったとして帝国に捕まり、死刑となった男なんですけど……。
 wikipediaや随筆をすこし読んでみました。どういうことがあったのかを知りたいです。ネット上ではとくに、このサイトのPDFの記載が詳しかったです。
 

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晶子詩篇全集拾遺(47)

 今日は、与謝野晶子の「晶子詩篇全集拾遺」その(47)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 百年前の東京の風景がいくつか描かれます。おおきな帆のような染物が街を彩る、それに感情移入している与謝野晶子のユーモアあふれる詩です。
 

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群集の人 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「群集の人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 仕事を退いて「銀座裏のアパアト」に引き越した斑猫という男が登場します。銀座裏という、最初の環境設定がみごとなんだなと思いました。二十世紀前半の銀座裏。大都会なのか田舎なのかよくわからない。映画のセットの裏側に迷い込んだみたいな、空間だったのかもしれないです。
 近代文学の魅力は、文字で異なる時代の都市空間を観察出来る、というところもあると思うんです。詳しい人なら平安時代の住まいの様相を克明にイメージ出来ると思うんですけど、普通はちょっと資料でも無いと分からない。近代なら現代と地続きなので、予備知識が無くてもいきなり読んでみてすんなり認識しやすいと思います。
 中盤から、不思議な夜の徘徊の場面が描かれます。赤い煉瓦の洋館が立ち現れてきたあたりから、妖しい気配が漂い始めます。
 主人公は老いた独身者で……なんだか「コーネルの箱」を連想しました。オチに蛇足みたいな一行があって、このちょっとした後日談みたいなはみ出した感じがなんだが好きだなあと思いました。
 

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サセックスの吸血鬼 コナン・ドイル

 今日は、コナン・ドイルの「サセックスの吸血鬼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるんですけど、コナンドイルの魅力は、探偵が謎を解いてゆく過程で、まったくの荒唐無稽に思えたことが、現実としっかり地続きであって、ありえないような怪異も事実に繋がりうる、ということを物語の中で巧妙に描ききるところにあると思います。
 善良に見える人がなぜか不気味なことを行ったまま、そのことについて沈黙してしまった。それには理由があって……。つづきは本編をご覧ください。
 ところで「事実は小説よりも奇なり」という言葉は、バイロンの長詩が原典なのだそうです。
 

0000 - サセックスの吸血鬼 コナン・ドイル

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※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」によって公開されています。詳細は本文末尾の底本をご覧ください。

論語物語(17) 下村湖人

 今日は、下村湖人の「論語物語」その17を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ダンテ・アリギエーリが『神曲 地獄篇・煉獄篇・天堂篇』という偉大な作品を記す少し前に、ダンテは政治の仕事でひどいめにあって、故郷を追放されてしまったんです。
 孔子の人生には故郷を去って、長い放浪の旅に出るシーンがあるんです。元居たところから去ってゆく、というのが文学や哲学の著名なところで印象的に存在しているように思います。wikipediaにはこう書いていました。
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 政争に敗れてフィレンツェを追放されたダンテは、北イタリアの各都市を流浪し、政局の転変を画していた。その中で方針の違いから白党の同志とも袂を分かち、「一人一党」を掲げる。この体験はダンテにとって非常に辛いものであり、『神曲』中にも、「他人のパンのいかに苦いかを知るだろう」、と予言の形をとって記されている。ダンテの執筆活動はこの時から本格的に始まり、『神曲』や『饗宴』、『俗語論』、『帝政論』などを著していった。quomark end - 論語物語(17) 下村湖人
 
 孔子の場合は「故郷をあとに、永い漂浪の旅に出たのは、五十六の歳であった」と記されています。そしてまずは「衞」の国を訪れた。下村湖人は、この時の孔子の状況と心情をこう書いています。
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 孔子は、待遇よりも自分の政治的信念を実現する機会が得たかったので、一縷の希望をつないで、しずかにその時の到るのを待つことにした。
 こうした場合、彼の心にぴったりするものは、何といっても音楽であった。彼はしばしば詩を吟じ、しつを弾じ、けいを撃った。quomark end - 論語物語(17) 下村湖人
 
 磬という楽器の演奏は、youtubeで聞けて、こういうものなんです。
 ここで奇妙な隠者が現れる。孔子の磬の音色から、かれの心情を考察している。孔子は千年後二千年後の時代にまで深い影響を与えた思想家ですけど、政治家としての孔子は不遇だったようです。この不遇な面が、凡人の自分としては理解しやすいというか、勉強になりやすいところであるように思いました。
 自分が他人から認められないから、孔子は憂うということでは無いわけで、孔子はこう考えます。
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 一身を潔くするというだけのことなら、大して難かしいことではない。難かしいのは天下と共に潔くなることじゃquomark end - 論語物語(17) 下村湖人
  

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『論語』はこちら(※論語の原文に近い日本語訳です)