論語物語(6) 下村湖人

 今日は、下村湖人の「論語物語」その6を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 孔子がもっとも重大視した弟子は、勇猛な子路と、無欲な顔回の二人います。
 顔回は身体が弱いので、激務をこなす役人になれる可能性はほとんど無い。
 孔子は、顔回の仁を重んじて生きる姿をいつも高く評価してきた。
 冉求ぜんきゅうは、はじめは顔回の生き方を、ただ慰めを求めて学問に馬鹿正直になっているだけだと思い込んでいたのですが、孔子の教えを学ぶうちに、顔回の素朴な学び方こそが重大だと分かるようになってきた。
 

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料理メモ 北大路魯山人

 今日は、北大路魯山人の「料理メモ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 リモート会議というのが世間ではよく行われているらしいのですが、ぼくは一人で飯を食うときに、料理動画をたれ流してリモートで料理人の様子を見ていると食が進む、ということに気がついて、最近よくこういう動画を見ています。魯山人の随筆はどれを読んでも食欲がわくんですが、この本の鮎の記述がすごかったです。論語のなかで出てくる言語論とか、あるいはジンロウゲームとか、坂口安吾の推理小説を読んでいて思ったんですけど、事実というのは細部にあらわれるもんだなと、思いました。虚について語っているときは、大ざっぱになりがちなんですけど、魯山人の随筆は、自分の生の実感を語っているわけで、細かいところまで漏らさずに記していて、こういうのが事実を言っているときの語りなんだと思いました。
 

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なまけ者と雨 若山牧水

 今日は、若山牧水の「なまけ者と雨」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ぼくはどうも、雨に対しての語彙がまったく乏しくて、小雨と大雨くらいの差しか認識できないんですけど、歌人の若山牧水が雨のことを描くと、あらゆる雨の様態が描きだされるんです。若山牧水の言葉は水彩画みたようで、雨がもたらす光景の機微を微細に描きだすんです。今回、牧水は慈雨や小雨、穏やかな雨のことを描きだしていて、自然界への敬愛の意を記しています。
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  はちはちと降りはじけつつ荒庭の穗草がうへに雨は降るなりquomark end - なまけ者と雨 若山牧水
 

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晶子詩篇全集拾遺(35)

 今日は、与謝野晶子の「晶子詩篇全集拾遺」その(35)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回の「わが墓」という詩は不思議な作品で、与謝野晶子の詩歌が次の時代に残ってゆく、その過程を連想しました。子への愛をうたった詩も美しかったです。自身の言葉に対する冷徹な眼差しと、人間に対する思いの対比がすてきでした。
  

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父の婚礼 上司小剣

 今日は、上司小剣の「父の婚礼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 古い小説の魅力の一つに、現代人の生き方とはまるで異なる世界に接することができる、というのがあると思います。それで現実世界の隣人との付き合いとはちがって、俯瞰して落ちついて見ることが出来る、というのがあると思うんです。
 古い文学は現代と距離感があって、時代が変わっているのでいわば毒が抜けている……と思っていたのですけれども、この上司小剣という奇妙な名前の作家の本を読むと、まるで自分の家族が悪夢を訴えかけてくるくらい、ギョッとすることがいくつも書いているんです。百年前の世間が書かれているはずなのに、いま読んでも生々しいんです。これはいったいどういうことなんだと思って調べてみると、いまコレを純文学として読む一般的な読者というのはほとんど居ないみたいなんです。なんというか、戦中戦前だけの世界観ですし。それから田舎の古い習俗と世間に生きてきたこの上司小剣は、のちに読売新聞の編集局長にまでなった大人物なんだそうです。それで世間のことをものすごくよく知っていて、百年後のいま読んでも、空恐ろしいくらい生々しい小説になっているようです。
 四章で、平七の妻が主人公の少年にいたずらをするのですけれども、これもずいぶん露骨なんです。
 主人公の、母への想いの描写が、人情味のある描写でした。主人公の九歳年上の「お時さん」という人が、父親と結婚をすることになった。
 父の家族と、隣人の平七夫婦。良い気配と悪い気配、新しいことと古いこと、こういったものを交互にあざなえるように描くのが上手いんだと思いました。
 

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不連続殺人事件 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「不連続殺人事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは坂口安吾が戦後すぐに発表した娯楽小説なんです。安吾本人が作中に「附記」としてこう書いています。
quomark03 - 不連続殺人事件 坂口安吾
 作者の意図するところは、皆さんに、知的な娯楽を提供し、クソ面白くもない世の中に、何日、何時間か、たのしい休養のゲームを贈り物し、一つ無邪気にシカメッ面のシワの洗濯をやりましょう、という微意にほかなりません。quomark end - 不連続殺人事件 坂口安吾
 
 「不連続殺人事件」はかなり長い小説なんですけれども、前半は謎解きという感じはまったく無くて、奇態な人々が夏に、豪華な山荘に集まってきて、夜な夜な扇情的なパーティーをする物語が展開します。ここからはネタバレが含まれるので、未読の方は本文から先に読んでください。
 警察の対応がけっこうおもしろいんですよ。それなりに科学的手法をもって論理的に犯人さがしが行われる、けれどもそういった手法ではまったく犯人に辿りつかずに、事件は次々に起こってしまう。警官はちゃんと要所要所で見張りをしているんです。けれども犯行はその裏をついて行われてしまう。主人公「私」の友人の「巨勢博士」というニックネームの男が、この一連の事件の謎解きをするわけなんですけれども、読者であるぼくには犯人がまったく分かりませんでした。ちょっとあまりにも事件が込み入っていて、何をどう考えたら良いのかさっぱり判らない。
 けっこうエンターテイメントに徹していて、作中に「附記」として坂口安吾が出てきて、いろいろ書くのが面白かったです。太宰治まで出てくるんですよ。純文学者が娯楽を作ったら、こんなにすごいことになるのか、と驚きました。
「人間は五十年の命ですから、イヤな奴と和平の必要はないですよ」とか、作中でかっこ良いことがいろいろ書かれていて読んでいて楽しいんです。
 よく、連続殺人が起きていて犯人を捕まえられない警察は無能だとか、いうふうに思いがちなんですが、正しいことはたいてい後手後手で動いてゆくしかないわけで、こういう事件を物語の展開でみてゆくと、とてもじゃないけど、謎の犯人までたどりつけそうにない、と思いました。
 二十二章の終わりに、いよいよ、謎解きの本番が始まるのですけど、ぼくは今、ここまで読み終えて、装画を作っていって原稿をアップロードしているところです。しょうじき犯人は、まったく分からなかったです。賢い読者と流し読み読者で、たいそう差がついちゃうんだなあと、ちょっとショックでした。
 推理小説と言えば読者をミスリードさせている、というのが大前提だと思うんですけど、今回は事態があまりにも多すぎて、ぼくにはさっぱり判らなかったです。坂口安吾は二十二章で、こう書いています。
quomark03 - 不連続殺人事件 坂口安吾
 今回をもって、皆さんの解答をいただく順となりました。
 犯人の名前だけ当てたって、ダメですよ。法廷へ持ちだして、起訴することができるだけの、推理がなければ、いけません。quomark end - 不連続殺人事件 坂口安吾
 
 wikipediaによれば、江戸川乱歩がこの不連続殺人事件を絶賛していて「日本の純文学作家の探偵小説は谷崎潤一郎、佐藤春夫両氏の二三の作など極く少数の例外を除いて、見るに足るものがなく、(中略)見事にこの定説を破ってみせ、ある意味では我々探偵作家を瞠目せしめたと云っていい」、「トリックに於いては内外を通じて前例の無い新形式が考案されていた」と書いているんです。読み終えてみると、かなり正統な仕掛けでした。
 犯人は双子だったとか、同姓同名の人間が二人いたのだとか、じつは死人があらかじめ準備しておいた犯行を実現できてしまったのではないかとか、いろいろ奇抜な反則技について勘ぐってみたのですが、まったく状況を読み解けないまま、最後の事件が立ち現れてしまいました……。以下はネタバレなので、未読の方は読み飛ばしてください。(坂口安吾はあくまでも正統に推理小説を展開していて、トリックとしては、犯人像を心理的に誤認してしまう、屈強で野卑な男の犯行だろうと思い込んでしまう、被害者っぽさが誇張されていて容疑者から除外してしまう、そういう一般的な心理の間隙をついた、盲点のところに犯人が立っていた、というのが真相でした。)
 

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