不連続殺人事件 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「不連続殺人事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは坂口安吾が戦後すぐに発表した娯楽小説なんです。安吾本人が作中に「附記」としてこう書いています。
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 作者の意図するところは、皆さんに、知的な娯楽を提供し、クソ面白くもない世の中に、何日、何時間か、たのしい休養のゲームを贈り物し、一つ無邪気にシカメッ面のシワの洗濯をやりましょう、という微意にほかなりません。quomark end - 不連続殺人事件 坂口安吾
 
 「不連続殺人事件」はかなり長い小説なんですけれども、前半は謎解きという感じはまったく無くて、奇態な人々が夏に、豪華な山荘に集まってきて、夜な夜な扇情的なパーティーをする物語が展開します。ここからはネタバレが含まれるので、未読の方は本文から先に読んでください。
 警察の対応がけっこうおもしろいんですよ。それなりに科学的手法をもって論理的に犯人さがしが行われる、けれどもそういった手法ではまったく犯人に辿りつかずに、事件は次々に起こってしまう。警官はちゃんと要所要所で見張りをしているんです。けれども犯行はその裏をついて行われてしまう。主人公「私」の友人の「巨勢博士」というニックネームの男が、この一連の事件の謎解きをするわけなんですけれども、読者であるぼくには犯人がまったく分かりませんでした。ちょっとあまりにも事件が込み入っていて、何をどう考えたら良いのかさっぱり判らない。
 けっこうエンターテイメントに徹していて、作中に「附記」として坂口安吾が出てきて、いろいろ書くのが面白かったです。太宰治まで出てくるんですよ。純文学者が娯楽を作ったら、こんなにすごいことになるのか、と驚きました。
「人間は五十年の命ですから、イヤな奴と和平の必要はないですよ」とか、作中でかっこ良いことがいろいろ書かれていて読んでいて楽しいんです。
 よく、連続殺人が起きていて犯人を捕まえられない警察は無能だとか、いうふうに思いがちなんですが、正しいことはたいてい後手後手で動いてゆくしかないわけで、こういう事件を物語の展開でみてゆくと、とてもじゃないけど、謎の犯人までたどりつけそうにない、と思いました。
 二十二章の終わりに、いよいよ、謎解きの本番が始まるのですけど、ぼくは今、ここまで読み終えて、装画を作っていって原稿をアップロードしているところです。しょうじき犯人は、まったく分からなかったです。賢い読者と流し読み読者で、たいそう差がついちゃうんだなあと、ちょっとショックでした。
 推理小説と言えば読者をミスリードさせている、というのが大前提だと思うんですけど、今回は事態があまりにも多すぎて、ぼくにはさっぱり判らなかったです。坂口安吾は二十二章で、こう書いています。
quomark03 - 不連続殺人事件 坂口安吾
 今回をもって、皆さんの解答をいただく順となりました。
 犯人の名前だけ当てたって、ダメですよ。法廷へ持ちだして、起訴することができるだけの、推理がなければ、いけません。quomark end - 不連続殺人事件 坂口安吾
 
 wikipediaによれば、江戸川乱歩がこの不連続殺人事件を絶賛していて「日本の純文学作家の探偵小説は谷崎潤一郎、佐藤春夫両氏の二三の作など極く少数の例外を除いて、見るに足るものがなく、(中略)見事にこの定説を破ってみせ、ある意味では我々探偵作家を瞠目せしめたと云っていい」、「トリックに於いては内外を通じて前例の無い新形式が考案されていた」と書いているんです。読み終えてみると、かなり正統な仕掛けでした。
 犯人は双子だったとか、同姓同名の人間が二人いたのだとか、じつは死人があらかじめ準備しておいた犯行を実現できてしまったのではないかとか、いろいろ奇抜な反則技について勘ぐってみたのですが、まったく状況を読み解けないまま、最後の事件が立ち現れてしまいました……。以下はネタバレなので、未読の方は読み飛ばしてください。(坂口安吾はあくまでも正統に推理小説を展開していて、トリックとしては、犯人像を心理的に誤認してしまう、屈強で野卑な男の犯行だろうと思い込んでしまう、被害者っぽさが誇張されていて容疑者から除外してしまう、そういう一般的な心理の間隙をついた、盲点のところに犯人が立っていた、というのが真相でした。)
 

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論語物語(5) 下村湖人

 今日は、下村湖人の「論語物語」その5を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回の物語を一言で表現すると、巧言令色鮮し仁こうげんれいしょくすくなしじんということだと思うんですけど、これが生まれつきの軽薄さから来るのでは無くて、状況を推し進めるときに、必然的にウソが入り混じっていって、最後には虚偽のほうが中心になってしまう、という展開が印象深かったです。子路は孔子一門を有名にするために、実力が足りない人を要職につけてしまい、孔子はこの問題について直接論じるんです。今回は言語論についての考察でもあって、普通に勉強になる話しだと思いました。
 本文とは関係が無いんですが、要職に登用をされると、リスクが激増してしまう……ということを思いました。
 子路は、この小説だけを読むと、調子乗りの知者のように見えるんですけど、ほかの論語の本を読むと、孔子の一番弟子のような存在の、古参の大男で、孔子に出会うまえはたいへん野蛮な男で、孔子一門の中でもっとも武勇に長けた、戦闘的な男だったそうなんです。wikipediaで子路について書いていたので、これが参考になると思いました。
  

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★『論語物語』をはじめから最後まですべて読む(※大容量で重いです)
『論語』はこちら(※論語の原文に近い日本語訳です)

まぼろし 国木田独歩

 今日は、国木田独歩の「まぼろし」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ぼくは今回はじめて、独歩のこの小説を読んでみました。wikipediaには独歩について、こう書いていました。
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  友人の田山花袋は、独歩の人生を一文字で表すなら「窮」であると……quomark end - まぼろし 国木田独歩
 
 おわりの五行が印象的でした。

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泥葬 竹内浩三

 今日は、竹内浩三の「泥葬」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 おおよそ百年くらい前のなんということもない詩を読んでみたんですけど、そこで都市の名前が出てくるんです。新宿や池袋の名前が記されています。新宿……というと都庁や歌舞伎町をイメージするんですけれども、そういうものがない新宿のことを書いている。都庁も歌舞伎町も無い新宿はイメージしにくい。昔は道ばたに腐ったものやゴミが散乱していたのかもしれなくて、泥という言葉ひとつとっても、その内側の意味がちがってしまっているのかもしれない、と思いました。無名の詩には変に現実的な描写があったりして、妙な感じがおもしろかったです。自然界の描写が二行だけ記されているんですけれども、そこだけ泥中の蓮……のような描写になっていました。
 

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晶子詩篇全集拾遺(34)

 今日は、与謝野晶子の「晶子詩篇全集拾遺」その(34)を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 母への思いが美しい詩でした。
 

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酔へ! ボードレール

 今日は、ボードレールの「酔へ!」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は富永太郎が翻訳した、ボードレールの短い詩を読んでみました。これすごい詩なんです。本文こうです。
quomark03 - 酔へ! ボードレール
  すべての廻転するものにでも、すべての歌ふものにでも、すべての話すものにでも、今は何時だときいてみたまへ。(略)『時』に虐げられる奴隷になりたくないなら、絶え間なくお酔ひなさい! 酒でも、詩でも、道徳でも、何でもおすきなものでquomark end - 酔へ! ボードレール
 
 ボードレールはフランスの詩人で、のちの世の人からブラック・ヴィーナスとも呼ばれたジャンヌ・デュヴァルと恋愛し十年以上ともに暮らしたのだそうです。詩に酔いたまえ、というボードレールの言葉が印象に残りました。全文は以下から読んでみてください。すてきな詩なんです。
 

yoe line - 酔へ! ボードレール

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追記   最近、YouTubeで海外のミュージッククリップを聞いてまわることがマイブームとして再燃しているんです。はじめは音を楽しんでいただけなんですけれど、それで、いったい彼らは何を歌っているのか、ちょっと知ってみたいと思って、和訳も調べつつ、これまで黒人がブルースやラップで何を歌ってきたのかというのを、歌の和訳サイトで、いろいろ見てまわりました。人気のあるものから順番に聴いていったのですが、音楽を聴いただけでも、Black Lives Matterという言葉がつい数カ月前に生みだされたわけでは無く、長い時間をかけて求められてきたことが理解できるように思いました。
 
Public Enemy – Fight The Power 和訳はコチラ
Childish Gambino – This Is America 和訳はコチラ
Travis Scott – SICKO MODE ft. Drake 和訳はコチラ
Lupe Fiasco & Guy Sebastian – Battle Scars 和訳はコチラ
Alicia Keys – Underdog 和訳はコチラ
 
ブルースの和訳サイトもいくつかリンクを紹介します。
【和訳】B. B. King – Everyday I have the blues
【和訳】B.B. King – How Blue Can You Get
【和訳】Howlin’ Wolf – Killing Floor
【和訳】Robert Johnson – Cross Road Blues
【和訳】John Bundrick – Muddy Water
【和訳】T-Bone Walker – Stormy Monday
 
 Black Lives Matterにかんする詳しい内容は、こちらのwikipediaや、wiredの最新記事や、映画と黒人文化に関する記事、が理解しやすかったです。
 今回はボードレールの詩を読みながら、ブラックミュージックをいろいろ聴いてみました。パブリック・エナミーの”Don’t Believe The Hype!”というのが印象に残りました。