細雪(32) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その32を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語は、父が不在である、ということが序盤から記されていたんですが、これに関する言及はほとんどなされなかったんですが、今回このことがこう明記されていました。「父が全盛時代に染めさせたこの一と揃いは、三人の画家に下絵を画かせた日本三景の三枚襲ね……」
 父が居たころはぜいたくで上品な暮らしぶりだった。「細雪」が書かれたのは大戦末期のころなんですが、作中の時代は1941年ごろです。
 また知り合いが、アメリカのハリウッドの映画会社で働こうとしていたことや、舞や寿司といった日本文化のことや、国際的な交流のことを今回もいろいろ記していました。日本の戦後のことを誰よりもいち早く捉えて書いていて、戦後にはこの本が世界的な人気を得た、と思いました。
 家族や皆の前で舞を踊るように、姉から依頼されて、妙子は豪華な和服を着て踊り、ロサンゼルスで写真術を学んできた板倉がこれを撮影しました。妙子は、東京に行った雪子が今回のつどいに参加できなかったことを残念に思うのでした。ドイツの少年が妙子の舞を、ほんとに熱心に見つめている、という描写がずいぶん印象に残りました。
   

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。 ※ 人名を書き間違っていたのを、少し訂正しました。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

ねずみの冒険 小川未明

 今日は、小川未明の「ねずみの冒険」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ネズミ取りにひっかかったネズミをどうやって処分しようかということで悩む主人がいるんですが、これがずいぶんものぐさで、めんどうくさがりな男で、猫にやらせようとしたり、いろんな方法を思いつくんですが、ぜんぶ具体的にやるにはだるいのでやってられない。『あまりにも……ものぐさすぎるハンター』というテーマで短編小説を書いたらずいぶん奇妙な物語になるのでは、と思いました。これは童話なので、もっと牧歌的な内容で、後半はネズミを助けたい少年が主人公になったりするのでした。
 

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神伝魚心流開祖 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「落語・教祖列伝 神伝魚心流開祖」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾の小説と随筆は、とにかく生命力と迫力にあふれていて、ウワッと思う作品が多いんですけど、今回のは昔ばなしっぽい「カメ」という大食い男の不思議な成功譚というか滑稽譚なのでした。
 とにかく腹いっぱい食うためには何でもする馬鹿な男が、山でたらふく山菜を食ったり、食うためにたいそう働いたり、嫁さんをもらったり、食い意地がはりすぎていてだまされたり、という悪食の物語なのでした。「落語・教祖列伝」のなかの「神伝魚心流開祖」のお話しなんです。
 これが書かれたのは、過去数百年でもっとも飢餓が深刻だった時代なんです。いっぱい食うために、魚を追うための泳ぎも上達した。泥沼の底に住む悪食の亀みたいな生きかたを、説く指南書なのでした。作中で「ミソ漬のムスビは、うまいなア!」という発言があるんですが、こんなどうでもいいような記載に、なんだかすごい迫力がありました。
  

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学問のすすめ(3)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その3を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第三篇では、国家のことを論じています。文明開化によって国際化したり西洋化する日本において、国家がどういう意味を持っているのかを説いています。国家間の戦争についても説いていて、人数や戦力も重大だけれども、独立していて国家に関わる人民がどのていど居るのかのほうが重要だと説くんです。戦争をする理由が不透明である場合は、人々は参加しがたくなるわけで、大国であっても小国を攻め滅ぼすことは出来ない、というんですが、これは20世紀以降の戦争の問題でも言えることで、福沢諭吉は、現代にも通じる普遍的な論考をしているように思いました。
 福沢諭吉は、人々の独立心がしっかりしているほうが、国の力も増すんだということを告げていました。「独立の気力なき者」は、じつは集団に対して依存しているばかりで、肝心なところで集団に対して「不親切」となる、と書いていました。
「独立の気力なき者は人に依頼して悪事をなすことあり」という段では、旧幕府における不正について論じつつ、近い将来の日本の権力における悪性のしくみも説かれていました……。
 一人一人が独立してゆくことによって、集団や国家の独立性も保たれてゆく、というのがこんかいの主要な指摘でした。福沢諭吉は、上手くいっていない人に対して厳しいことをいろいろ記しているんですが、学びを改めて始めることによって愚かさから脱出できるということを説いているところが魅力のように思いました。
 次回に続きます。
  

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 
 他人の権威をつかって悪いことをしてしまう人は、独立心がとぼしくて、いろんな災いを引きおこす、という指摘がありました。なんども名作を紹介している自分としてはなんだか恐ろしい話に思いました。
 なにものにも寄りかからずに独立して生きる人が活躍できる社会のほうが、社会全体は強い、といういっけん矛盾しているような話しがありました。そういえば哲学者のウィトゲンシュタインの個人史や主戦論を読み解くと、たしかに独立心の深い人のほうが、集団に対して盛んに参画するところがあるんだなあと、納得がゆきました。ゲーテは、ギリシャ古典文化の魅力を独自に研究して創作に活かして文学の業績をつくったあとに、なぜか政治に深く関わったわけで、独立心が旺盛だと、かえって集団に対して貢献しようとすることがあるんだなと思いました。
 国内で独立できなかった人は、海外に行っても独立できない、とかいうことも述べていました。まあそうなんだろう……というように思いました。福沢諭吉は学びが薄くなってしまっている人に対して、すごい厳しいことを書くんです。本文こうです。「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛へつらうものなり。常に人を恐れ人に諛う者はしだいにこれに慣れ、その面の皮、鉄のごとくなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を屈するのみ」……ホラー映画の登場人物は、たいていこうなっちゃうよなあとか、思いました。「柔順なること家に飼いたる痩せ犬のごとし」とか、ひどいことを書いていました。これを読んでいると、どうもウィトゲンシュタインの日記のことを思いだして、たしかにウィトゲンシュタインの考え方は、福沢諭吉の主張と重複しているところが多いんです。数学を深く学んでゆけば数の問題で驚くことは無くなってゆく、というウィトゲンシュタインの指摘があったんですが、福沢も肝心なところで驚き怖れていては、恥辱や損亡に至ってしまうので「臆病神の手下」のようになってはいけない、と告げていました。なんにでも驚いていたら恥をかくぞ、みたいな指摘があるんです。ホラー映画を見ていろいろ驚いてる人生のほうが楽しいような気もするのでした……。

旅の絵 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「旅の絵」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 堀辰雄の文学が近代でもっとも洗練されていて優れた文体になっていると、思うんです。今回の小説は、主人公の「私」が日本に滞在する白人たちのことを書き、とくに目的もなく旅の楽しさを記す、穏やかな旅日記のような作品でした。作中で幾度もハイネの詩集のことを記しているのが印象に残りました。ハイネの詩を読み間違えていた箇所があって、あらためて辞書を引きながら精読をしてみると、予想外の内容で驚愕をした、ということが記されていたのでした。
 

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絵画にも、はじめの印象とまったく異なる秘められた物語が記された宗教画があったりするように思います。

停車場にて 小泉八雲

 今日は、小泉八雲の「停車場にて」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 小泉八雲ラフカディオ・ハーンといえば、日本の伝統的な幽霊譚を書き起こし、不気味な言い伝えを文学に昇華した作家だと思うんですが、今回のは現実にあった事件の考察なんです。ラフカディオ・ハーンはこの実話物語を「きわめて東洋的な事件」の顛末だというんですが、ほかの日本近代作家とはやはりぜんぜんちがう物語になっているように思うんです。ポーやH.p.ラヴクラフトに見受けられるような、普通ならこうは書かないだろうなあというような乾いた事件の描写があるんです。
「警察の記録には、毎年、プロの犯罪人たちが子どもらに示した同情の報告がある」犯罪の現場にまったく無傷で生きていた「小さな男の子」のことを書いていました。いま人気の海外ドラマの開始数分のところで見るような場面を、ラフカディオハーンは切り取るんです。まなざしが違うと、描かれる場面がまるで異なるのでは、と思いました。
 

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