われはうたえどもやぶれかぶれ 室生犀星

 今日は、室生犀星の「われはうたえども やぶれかぶれ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 室生犀星というと『杏っ子』というのが有名な代表作かと思いますが、こんかいは最晩年の作品を読んでみました。詩や小説を書くためのメモをとっている、ということから室生犀星の「われはうたえどもやぶれかぶれ」が始まります。深夜に幾度も起きて厠にいくしかない、喉もやられて体調が不良になっている「私」の深夜における日常のことを記しています。親戚でも無いかぎり目の当たりにすることの無い事態が事細かに記されていて、驚く内容でした。不調な身体のことと、その病の原因について記しているのでした。咳が止まらないのに煙草を繰り返し吸っているという、不思議な描写がありました。室生犀星は老境の「私」を描きだしていて、ずっとゆばりの不調と病について書いているのでした。序盤で老翁同士の諍いのことを書いていてギョッとするんですが、中盤から、知人であった宇野浩二の晩年のことを記していて印象に残りました。
 

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自己を中心に 三木清

 今日は、三木清の「自己を中心に」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 自己中心的というのはたいてい悪い意味で使われていて「近しい人や他人を排除している」ということを意味するかと思うのですが、漱石の「自己本位」や三木清が述べている「自己を中心に」というのは、他者に貢献するには、自己がしっかりしていないとどうにもならない、という意味のようです。本文こうです。
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 自分を中心にして仕事をしてゆくこと、それがけっきょく社会のために尽くすことになるのだと考える。自分というものを抽象して社会はないはずである。quomark end - 自己を中心に 三木清
 
 また「自分自身に還って仕事をするということである。まず主体を確立する」というように記していました。哲学者の三木清であっても、本は依頼されないとなかなか書けない、ということも記しています。三木清は質だけではなく量も重視していて、ゲーテの全集に匹敵するくらいの分量を書きたいという思いがあるようです。
「自分の能力を小出しにしない」で「自分の才能を浪費しないようにすることが大切である」それから、三木清の思想としては「民間アカデミズム」というものこそ重要なんだと、指摘しているんです。
日本の「文化史を見れば、民間アカデミズムは、たとえば徳川時代の儒者の間にも国学者の間にも存在したもので、それがかえってその時代の真のアカデミズムであった」と書きます。国家が主導しないものごとこそが、日本の文化にとって重要なことだという指摘でした。1939年という戦争の時代に書かれた随筆です。
  

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ゲーテ詩集(53)

 今日は「ゲーテ詩集」その53を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回の詩は、リナというただ一人に宛てた、個人的な詩のようです。ゲーテは詩に日付を入れて日記の意味を持たせよと述べていたり、詩を思想の書として記したり、「ファウスト」のように詩の連続で長大な物語を作ったりと、さまざまな詩を書いたように思います。
   

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夢の影響 與謝野晶子

 今日は、与謝野晶子の「夢の影響」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 
 夢の謎のことを書いているんですが、考察と表現がみごとで、今まで何十年も言葉にならないまま感じていたことが書かれていました。
 夢には意味内容が無くて、眼がさめれば消え去るだけのもので、数字で判断したら無のものであってなんの価値も無さそうに思えてしまうんですけど、そこでの感動は残るし、その日の現実にも良い影響を与える。悪夢からめざめて助かったと思う、その助かったという感情は事実なわけです。夢を観察して、夢を考察すると、平生では思いつかなかったヒントも見つかる。
 夢の中のできごとは、歌や詩や小説の言葉と、近いところがあるのでは、と思いました。
 夢枕に立つ、なにかの喜びも、ただの水泡のようなものではなくて人の実感のようなところがある。次の一文が印象に残りました。本文こうです。
quomark03 - 夢の影響 與謝野晶子
 ……目が覺めて居る時よりも一層よく寫實的に觀察することの出來るばかりで無く、其れにおのづから明暗の度が適度に附いて、ちやんと一つの藝術品として立體的に浮き上つて構圖されて居る場合があります。さう云ふ場合に、人が夢を見て居ると云ふことは眠つて居るので無くて、藝術家としての最も純粹な活動をして居ることに當ると思ひます。quomark end - 夢の影響 與謝野晶子
 
 与謝野晶子は「小野小町が夢を愛したと云ふ氣持は私にも想像することが出來るやうに思ひます。」と書くのでした。
 川を愛するとか、夢を愛するとかいうのは、前時代的で間違っているような気がしていたんですが、与謝野晶子は、こういう芸術上の喜びがあって良いのだというように考えて、いるのでした。
 

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おりこうハンス グリム

 今日は、グリムの「おりこうハンス」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……児童向けの童話のはずなんですが、まったく同じ場面が何十回も繰り返されていて不思議な構成の物語なんです。
 グリムは意外と、ドナルドジャッドの現代美術みたいにシンプルな、反復の作品を作るのだなと、思いました。小説なのに、歌や詩のようなリフレインが平然と繰り返される童話で、なんだかオチがみごとでした。
 

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ガリバー旅行記(3) ジョナサン・スイフト

 今日は、ジョナサン・スイフトの「ガリバー旅行記」その3を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 前回は、小人の国や、巨人の国に迷い込んだガリバーだったのですが、今回は海賊に襲われて海を漂流してから、奇妙な島にたどりつくんです。「飛島」という、なんだか地動説で描かれた世界地図の絵画のような、巨大な島を目の当たりにするんです。深海魚の眼が奇妙になっているように「飛ぶ島」の生きものも、奇妙な姿をしているのでした。なんだか天国と地獄が一体化したような見かけにおどろく物語になっていました。
 深海の生物がすごい生態系になっているように、この国の生態系もまったく異質で、未知の文化を形成しているのでした。都市の構成としては、ふつうの文明では平面的に広がる世界だと思うんですが、この「飛ぶ島」では上下に移動する立体の都市なのでした。国王や貴族や「先生」が現れて、ガリバーにさまざまなことを教えてくれます。「飛ぶ島」ぜんたいは宇宙船のように、地球のいろんなところへ移動できる……動く半月の球、のようなものになっていて、あきらかに18世紀や現代の文明を超越しています。
 ダンテ『神曲』天堂篇のはじまりのところでは、こういう中空に浮く世界が美しく描かれていたわけですので、このあたりの古典文学が今回の『飛島』と似ているように思います。幾つかの資料を調べてみると、おそらくダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』と三部構成のダンテ『神曲』を合体させたら、この物語に近いものになるように、思いました。
 いっけん高度な文明が発達したようにみえる巨大宇宙船のごとき「飛島」なんですが、人々の暮らしぶりはそうとう無理のあるものになっていて、家もデコボコで、神話で言うところの『バベルの塔』の下層で生きるような暮らしになっているのでした。さらに太陽に近づきすぎたために熱線への恐れを抱いていたりして、三百年後の現代におけるオゾン層の崩壊によって太陽光に耐えられなくなる問題、について悩んでいる。まったくバベルの塔の滅びに似た問題を抱えているのでした。
 作中では、数学と音楽には秀でていて「飛島」をつくることに成功したのに、現実にはひどい国と暮らしになってしまっている、という悩みが描かれていました。都市生活をおくる現代人にもうまく響いてくる、寓意のみごとな物語に思いました。
 この「飛島」は磁力の仕組みで中空に浮かんでいるんです。王ののぞみは、数学を発展させることにしか興味がないようなんです。王は眼下にある国々から税金をしぼり取っていて、逆らう国には、上からおおいかぶさるようにして暗闇で包んでしまうのでした。「王の命令に従わないと、最後の手段を取ります。それは、この島を彼等の頭の上に落してしまうのです。」と書いていました。そうすると下の国はぜんぶ潰れてしまうわけですが「飛島」の円盤の部分もちょっと壊れて、揺らいでしまうので、この最終手段はほぼ使われていないというのでした。大国の悪行……十八世紀イギリス帝国主義への批判というように思えました。
「この国では、王も人民も、数学と音楽のことのほかは、何一つ知ろうとしない」ので話しも通じず、ガリバーはもうこの飛島に居るのがイヤになって、下にある国に、鎖をつたって降ろしてもらうことにしました。下にある国の「バルニバービ」では奇妙なことが起きていました。自然は豊かなのに、貧しさがはびこっているのでした。その理由は「飛島」の高度な数学に魅せられた人々がこの国にもあまたに居て、仕事をせずに研究だけに夢中になっていて、未来の壮大な計画だけを作りつづけて、だれも働かなくなってしまったのでした。のちのちは豊かな楽園になるはずの「計画」はあまたにあるんですが、現実には誰もちゃんと仕事が出来なくなっているんです。
 これも現代イギリスや先進国で見られる文化的な若者たちに共通する悩みが描かれているように、感じました。「計画」だけが進歩しつづけて、現実には仕事がちっとも出来なくなってしまう。これが「飛島」の数学研究の発展しつくした世界なのでした。AIにほとんど全ての仕事を任せたあとの、人類の世界のようにも思えました。本文こうです。
quomark03 - ガリバー旅行記(3) ジョナサン・スイフト
  残念なのは、これらの計画が、まだどれも、ほんとに出来上ってはいないことです。だから、それが出来上るまでは、国中が荒れ放題になり、家は破れ、人民は不自由をつづけます。quomark end - ガリバー旅行記(3) ジョナサン・スイフト
 
 中盤で記される、おかしな発明家たちの研究心というのがすごくって、天才なのかバカなのか分からないようすが描きだされるのでした。ふつう家は土台からつくって最後に屋根を作るもんだと思うんですが、それとまったく逆に、ハチの巣のつくりかたと同じ方法で、上から下にむけて建物を作る計画を練っている男とか、蜘蛛を研究して新しい布を作る研究者とか、なんだか迫力のある人間が次々に現れるのでした。
 300年も前に、あらゆる学問の書を書ける人工知能の機械を作ろうと研究している学者が登場していて、すごい本だなと思いました。現代AIの元祖の機械についていちばんはじめに書いたのは、ジョナサンスイフトのこの本なのかも、とか思いました。
 今回の中盤の箇所は、不思議なことがいっぱい書いてあって、300年前の本とは思えない魅力を感じる児童文学に思いました。藤子F不二雄の「暗記パン」の原典は、ガリバー旅行記第三部の中盤に「暗記せんべい」として描かれているのでした。平和な世界の子どもたちに、ジョナサンスウィフトはこういう物語を届けたかったのか、と思う冒険譚でした。「飛ぶ島ラピュタ」の正体はじつはイギリスのグレートブリテン島に『バベルの塔』をくっつけたもののことなのでは、と思いました。話しのはしばしが知的好奇心を生み出すもので、アイルランドやロンドン文化のかっこよさを感じさせる物語でした。
 

0000 - ガリバー旅行記(3) ジョナサン・スイフト

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★ガリバー旅行記の第1部から第4部まで全文通読する

『一人の教授の意見では、悪徳や愚行に税金をかけるがいい、というのでした。ところが、もう一人の教授の意見では、人がその自惚れている長所に税金をかけたらいい、というのです。』とか、イギリスの政治や進化を夢想させる記載があまたにあって、こういうところにも魅力を感じました。
 中盤からガリバーは、魔法使いと幽霊の島というところを訪れ、それから日本経由でイギリスに帰ろうとしてバルニバービの「宮廷」の王を訪れて、ここで不気味な慣習を目の当たりにするのでした。このあたりの権力者のつくっている隠謀のしくみと、その稚拙さというのが描きだされるんですが、なんだかユーモラスでもあるんです。ふしぎな表現でした。
 後半の「死なない人間」と呼ばれる人々がじっさいにはどうやって生きるのか、ということを記していて、これは老いつづけて死ににくい人間という意味で、二百歳を越えたころにはもはや記憶も言葉もまったく失っていて意思疎通もできない、謎めいた人間になってしまうというのでした。なんとも哀れで壮大な生のことが描かれるのでした。
 ガリバーは第三部の終盤で、日本を経由してヨーロッパへと向かうのでした。いきなり日本の長崎の出島のことが描かれていてちょっと驚きました。当時の「踏み絵」のことも書かれていました。
 ガリバーはぶじ、三度目の冒険を終えて家族と再会するのでした。ガリバー旅行記は次回の第四部で、完結です。