擬体 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「擬体」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦争が終わったあとに、GHQが日本を支配している、国警本部が動いている、日本の公安が調査をしている、という状況で、元軍人の石村という男が現れます。社長の石村は青木という主人公に、ある活動に協力するように依頼する。
 本文には「上海にいた時、それは戦時中のことで、石村は特務機関の仕事をやっていた」と書いています。その上海時代に、青木はなんとなく、今西巻子と何度か行動を共にして居た。その今西巻子は、いまこの戦後に、GHQが禁じている日共組織側の立場でスパイ活動をやっている可能性があると、石村は告げるのでした。青木は今西巻子と関わりが深いので、ほんとに日共スパイなのかどうかを確かめることにした……。つづきは本文をご覧ください。作中にこういう記載があるんです。「ひとをやたらに疑ったり、ひとをやたらに信じたりするのが、間違いの元です。だから、何でもないことがスパイに見えたり、何でもないことがスパイのスパイに見えたり、大間違いの結果になります。ばかげてるじゃありませんか」本文では戦後の軍事や諜報についていろいろ論じられているんですが、防衛論についても極論だけは辞めたほうが良いのでは、とか思いました。
 

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追記  ここからはネタバレなんですが、今西巻子を調べてみると決めたすぐあとに、主人公の青木が自殺未遂をしてしまうんです。未遂であって傷は浅く死ななかったんですが、これが突然すぎてよく分からなかったんですが、たぶん、日共のスパイという疑いが生じていることで心的な負荷が強かったのか、あるいは社長の石村の仕事依頼の内容に納得がゆかなかったのかと思われます。
 青木は体が治って、すぐに会社を辞職しました。スパイ活動を依頼されたがこれを断って辞職しました。どうもけっきょくは、今西巻子は、スパイでもなんでもなかったのに疑われたようです。おわりの10行が謎めいていて、なんだか不思議な読後感でした。

一坪館 海野十三

 今日は、海野十三の「一坪館」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦争が終わったあと、源一という少年が、銀座で一坪の土地をもらいうけた、というところから物語が始まる小説です。
 海野十三は、あらゆる建物が焼け跡になって無惨に壊れているなか、人びとがふつうに生きているところを描きだしています。近代にSF小説を多数書いた作家の、焼け跡と少年の描写が印象に残りました。本文こうです。
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  人影一つ見えない。みんなどこへ行ってしまったのだろうか。
「ほほう。ぼくが今ここに店を出したら、ぼくは戦災後せんさいご復興ふっこうの一番のりをするわけだ。よし今日中に店を出そう」
 銀座復興の店開きの第一番を、少年がひきうけるのはゆかいではないかと源一はいよいようれしくなった。quomark end - 一坪館 海野十三
 
 作中、花屋をやって花を売るのが良いだろうという案を出した老翁の描写がみごとでした。海野十三の敗戦日記と並べて読むと学ぶところがあるように思いました。実際に見たものと空想を混ぜて描写することの、力強さを感じる作品に思いました。
quomark03 - 一坪館 海野十三
  銀座も、バラック建ながらだいぶん復興ふっこうした。
 進駐軍しんちゅうぐんの将校や、兵士たちがいきいきした表情で、ぶつかりそうな人通りをわけて歩いていく。quomark end - 一坪館 海野十三
 

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細雪(18) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その18を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 次のフィアンセ候補である野村巳之吉の経歴がまとめられた厚紙が、妹・雪子の縁談をとりもっている姉・幸子のところに届けられました。こんどは結婚できそうな相手なんですが、ただ雪子が幸福になれそうな気配が感じられないんです。写真を見ても年寄りすぎて新郎という感じがせず、年齢差がありすぎるんです。
 この野村氏は家族が亡くなられていて新しい結婚相手を探しているんです。
 これはもうなんというか、戦時中の厳しい情勢の結果、雪子にも良い相手が見つかりにくくなっている、というのが明らかなんです。もし戦争や不景気が無かったとしたら、雪子はとっくの昔に幸福な結婚をしているはずの、豊かな環境に居るんです。
 作中ではまだぎりぎり戦争被害は近くに生じていませんが、作者は戦争被害をみている状態です。本文では父の不在は戦争の影響ではまったく無いことになっているんですが、戦争で家長が不在になったという当時の時世が明らかに反映されているように思いました。
 雪子は真面目ですから、すごい年齢差があるおじいちゃん顔のおっさんであっても、写真を見ただけでは断らないんです。縁談相手がいたほうが良いと思っています。ただなんども破談になるのだけは避けたいというように考えています。雪子はこう述べています。
「縁談の話やったら、云うてほしいねんわ。あたしかて、そんな話がまるきりないのんより、何か彼かか云うてもろてる方が、張合があるような気イするよってに。」
 幸子の娘である悦子は、近所のドイツ人ローゼマリーといっしょに人形でおままごと遊びをしているのでした。次回に続きます。
  

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

お茶の湯満腹談 夢野久作

 今日は、夢野久作の「お茶の湯満腹談」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……意表を突く物語展開が多い夢野久作の小説とは、ほとんど関わりの無いような、あるお茶会のありさまを描いた、ごくふつうの随筆でした。実話を書いていても、夢野久作の小説に顕著な、異質な視点が冴える記載が印象に残りました。雅なものを楽しむ富豪たちに囲まれて食事をしていたら、さいごに干し柿がでてきた。これはぜんぜん雅じゃなくて故郷で食べ続けてきたものなので、筆者の夢野久作は食わなかった。そのことを友人に指摘されるのでした。
    

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面会 織田作之助

 今日は、織田作之助の「面会」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……1940年の夏に発表された作品で、召集された友人のことを書いている、戦争ものの掌編でした。1945年の敗戦間近の新聞雑誌の半分以上は、戦争の記載に費やされていたように思います。
 織田作之助は1941年に「青春の逆説」で発禁処分を受けているのですが、風俗壊乱という理由で発禁になったそうです。 「面会」は、漱石が「草枕」の終盤で描いた、出征する男を連想させる短編でした。
 

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ゲーテ詩集(38)

 今日は「ゲーテ詩集」その38を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回の詩は、かたちあるものがほとんど記されていなくて、詩的空想というのか「黄金の夢」と記していますが、自然界のモチーフを使いながら、心的な世界のことを描いていて、ゲーテの詩の1つの特徴をあらわしているように思いました。古典的な詩の自由さを感じる作品でした。印象派の名画でもここまであいまいな輪郭だけで、美しいものはなかなか描き出せないのでは、と思いました。
  

0000 - ゲーテ詩集(38)

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