美 高村光太郎

 今日は、高村光太郎の「美」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはごく一頁の美術論なんですが、なんだかすごいことが書いてありました。言葉を使わずになにかの価値を生じさせる芸術活動を、言葉でも同定してみる……というのは言葉にならないことを言葉にしようとするのに近いわけで、詩文学を哲学的に論じているような、むずかしい試みに思いました。
 高村光太郎が指摘しているように、科学理論のほとんどは仮説であって近い未来に覆されることが多いです。いっぽうで古典数学や数式はいちど正しいと確定すると、次の時代にも滅びないし、半永久的に滅びないです。では美についてはどういうものなのか。高村光太郎はこう述べるんです。「美は次々とうつりかわりながら、その前の美が死なない」
 

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追記   美しいと思って買ってみた服、の場合は、ほんの数ヶ月ほどで美が色褪せてしまって、自分の美の感覚がどうも変だったことに気が付く、というのは誰にでもあると思うんですが、高村光太郎は、一時的で不安定な美のことを美と呼ばないんだろうなあと、思いました……。
 

ポラーノの広場 宮沢賢治

 今日は、宮沢賢治の「ポラーノの広場」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  この小説の主人公はレオーノ・キューストという男なのですが、ところどころ、宮沢賢治のそのまんまの性格が記されています。
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 俸給もほんのわずかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。quomark end - ポラーノの広場 宮沢賢治
 
 というのは現実の賢治もまったくこの通りに生きていたように思います。
quomark03 - ポラーノの広場 宮沢賢治
  あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。quomark end - ポラーノの広場 宮沢賢治
 
 という記載は「春と修羅」の詩で出てきそうな雰囲気です。賢治は農学校の先生で、レオーノ・キューストは市役所の不思議な役人です。はじめ、どこかに行ってしまった山羊を探し歩いていてようやくこの迷子の山羊を見つけたあとすぐ「ポラーノの広場」という謎の場所について語られはじめます。行き方が謎で、そう簡単には見つからない場所にある広場なんです。それからみんなでこのポラーノの広場を探しにゆきます。
 ここからはネタバレなので未読の方は本文から先に読んだほうが良いと思うんですが……旅の途中で現れる、番号が一つ一つ記された花というのが、謎めいていて、すてきでした。
 美しい音色が聞こえてくると、ポラーノの広場はもうすぐなんです。この広場では楽隊もいて夏まつりをやっているんです。ゲーテの『ファウスト』に描かれた乱痴気騒ぎや、ハリウッド映画に出てくる拳闘シーンみたいなものもあって、どうも明るい場面もあります。それから夏の祭りに疲れて、レオーノ・キューストとファゼーロ少年は家に帰ります。
 そのあと奇妙な事件が起きるんです。ファゼーロがどこかに消えてしまったんです。これが……これはもう完全にネタバレなんですけど、いっけん失踪に見えて、出奔というか、じつはりっぱな出立だったという事態が後半で明らかになります。子どもにまで乱闘をしかけたデストゥパーゴは事業に失敗して信用を失うのでした。デストゥパーゴが保てなかったポラーノの広場を、自分たちではじめから作り直そうとする、終盤のこの文章の前後の記載が、とても印象に残りました。
 
「そうだ(略)そこへ夜行って歌えば、またそこで風を吸えば、もう元気がついてあしたの仕事中からだいっぱい勢がよくて面白いような、そういうポラーノの広場をぼくらはみんなでこさえよう。」
 
最後のほうで(原稿約一枚分空白)となっているのですが、いちぶ失われていても、みごとな完成度であるのに驚きました。
 

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明けましておめでとうございます。今年も近代の詩や小説を中心に再読をしてみて、また新たに未読の本を見つけてゆきたいと思います。
 
追記
いま現在、更新を数日間ほど休止しています。明かりの本ではこれまで数回ほど「文学壁紙」を配信してきました。宮沢賢治「春と修羅」のPC&タブレット用の文学壁紙をちょっと作りました。ダウンロード無料です。ご自由に個人利用してください。
 
追記2 空き時間に「海野十三敗戦日記」の装画を作り直しました。

細雪(12) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その12を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 谷崎潤一郎は伏線や展開の反復がとくべつに上手い作家だと思うんですけど、今回は主人公の雪子が、病弱そうに見えてしまうのでそのことが向こうのお見合いする家族にとって心配に思えてしまうという、問いがあったんです。
 ところがじっさいには雪子はたんに奥ゆかしい性格であるだけで、いたって健康なんです。それを証明するために、ちゃんとお医者さんで健康診断をしておこうという方針になります。
 雪子は美しい容姿をしているので、ちょっとシミがあると妙にみんなが気になってしまうようです。雪子本人もちょっとだけ気になっている。この物語の序盤で出てきた、ビタミン注射のこともまた語られます。
 お見合い相手の女性の、細かなところを見る男たちなんですが、では逆に男のほうに、なにか隠された問題があるのでは……という展開になるようです。
 次回に続きます。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記  雪子は繊細なようでいて、芯の強い、あまり動じない人間のように思われます。作者の谷崎こそが当時の戦争の惨禍に動じず、伝統を新たにする生きかたを貫いた作家のように、思います。

奎吉 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「奎吉」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 梶井基次郎といえば「檸檬」がおすすめなんです。今回の短編「奎吉」では、なんだか厳しい状況が描かれます。今回の主人公の奎吉は、学校の勉強をサボってしまって、金も環境もずいぶんとぼしくなってしまった。金が無いので、無心をしつづけてしまって、さらに貧しくなってしまう。アブク銭とか悪貨とかいう言葉がありますけど、奎吉の手にしているお金はどうもそういうものになってしまう。
 真面目に働いてその対価が安定して入ってくる、というのとちがう金の流れで、お金に右往左往してしまう……。人ごとでは無い話だなあーと思いました。
 お金のもらいかたがどうも誠実ではなくても、使いかたのほうを改善することは出来るのでは、と思いました。
 

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板ばさみ オイゲン・チリコフ

 今日は、オイゲン・チリコフの「板ばさみ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ゴーゴリが「死せる魂」を書いた時にも検閲の問題は起きていたわけで、近代と検閲には深い関わりがあるように思います。この小説では、検閲官のほうが主人公なんです。作家と逆の立場のほうを描いていて、敵陣のほうの考えを中心にして描いているんです。
 検閲というのはどういうように生じるのか、この物語では、表現者の中心に立つ人のほうが具体的な検閲をやりはじめているんです。検閲官の考えのほうを忖度して、自主的に規制していってるんです。今回の検閲官には思想らしきものは無いんです。実際の文章とかはいっさい見てないで、検閲の内容というのはほんとに空っぽなんです。表現者の内なる検閲ということのほうが、検閲の本体になっているんです。ここまでは言って良い、ここからは言うわけにはいかない、という線引きがどうも編集長や論者にはあるようなんです。それは空っぽなままの検閲官よりも、かえって厳しい基準になっています。現実にはもっと明確な方針がある場合が多いと思うんですけど、近代やこの物語内部では、たぶんこういうように、検閲官はただの壁のようになっていて自主的な方針は無いんです。平和と権威を重んじる長官の命令と、新聞社編集長の方針、この二者のあいだに挟まれていて、原稿をまったく読まないし、さらには文章の内容も理解しがたくなっているわけで、検閲の手順は空洞化しているんです。
 そういう検閲官の空虚な仕事のなかで、ひとつの事件が起きます。外交問題を描いた記事で、クリユキンという作者の革命思想というのが、国家としては見逃せない危険思想なのでは、というような疑いが生じてくる。主人公の検閲官プラトンとしては、クリユキンの記す「革命」という言葉がどうも検閲して削除すべきものに思えてきた。フランス革命については誰もが書いていることであって、これを禁書とするというのは、ずいぶんムチャクチャなんです。もう検閲官プラトンは、ちょっと頭がゆるんでいて「フランス」と書いてあるとぜんぶ検閲して消してしまう。それまではどんな記事も読まずに、全部通してしまって、給料だけもらう変人だったのが、こんどは「フランス」という言葉を消しつづける役人という大迷惑なことをしはじめてしまう。
 いっぽうで、ほんとに検閲すべき、深刻な偽情報の新聞記事は、内容をちゃんと読んでいないので、ぜんぶ通してしまって、長官からお叱りを受けてしまう。そうなると、検閲官プラトンは困ってしまって、すごく大ざっぱに「個人攻撃をしている」ものは深刻な偽情報である可能性があるかもしれないし、これを消しはじめるんです。もうようするに、検閲する能力が無い人こそが、この検閲という仕事をえんえんやっていることになるんです。困っている人が困っている場所にずーっと居つづけるみたいなことが起きている。これは他人ごとじゃ無いなー、とか思いました。ここは苦手分野、というのが誰にでもあると思うんですけど、苦手分野ゆえにそこから抜け出せないわけで、要職でこういうことが起きちゃうと困るだろうなあー、と思いました。ふつうは得意分野のほうに移行してゆけると良いと思うんですが。
 これは検閲官プラトンだけが悪いわけでも無く、二種類の大組織の欠陥部分になっていて、上手く刷新できないのが困るように思います。ついにプラトンは心労で寝込んでしまうのでありました……。本文はもっとユーモラスというか滋味に富んだ小説なんです。中盤から後半あたりから、ため息と苦笑いに包まれる物語でした。
 

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ゲーテ詩集(32)

 今日は「ゲーテ詩集」その32を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 ビジネスマンのためのベストセラー本とか、応援ソングに代表されるような語法が、古典作品の中にそのまんま記されることはけっこう少ないと思うんですけど、今回は、ゲーテがまさにそういうことを書いていて驚きました。そういえば、ゲーテは著名な政治家でもあったので、そのあたりの気力を漲らせて職務にあたる、ということを実際にやったはずで、ビジネスマンの世界観にも通じていることを書くことがあるんだなあ、と思いました。まさか、というような不思議な詩でした。
  

0000 - ゲーテ詩集(32)

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