奎吉 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「奎吉」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 梶井基次郎といえば「檸檬」がおすすめなんです。今回の短編「奎吉」では、なんだか厳しい状況が描かれます。今回の主人公の奎吉は、学校の勉強をサボってしまって、金も環境もずいぶんとぼしくなってしまった。金が無いので、無心をしつづけてしまって、さらに貧しくなってしまう。アブク銭とか悪貨とかいう言葉がありますけど、奎吉の手にしているお金はどうもそういうものになってしまう。
 真面目に働いてその対価が安定して入ってくる、というのとちがう金の流れで、お金に右往左往してしまう……。人ごとでは無い話だなあーと思いました。
 お金のもらいかたがどうも誠実ではなくても、使いかたのほうを改善することは出来るのでは、と思いました。
 

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板ばさみ オイゲン・チリコフ

 今日は、オイゲン・チリコフの「板ばさみ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ゴーゴリが「死せる魂」を書いた時にも検閲の問題は起きていたわけで、近代と検閲には深い関わりがあるように思います。この小説では、検閲官のほうが主人公なんです。作家と逆の立場のほうを描いていて、敵陣のほうの考えを中心にして描いているんです。
 検閲というのはどういうように生じるのか、この物語では、表現者の中心に立つ人のほうが具体的な検閲をやりはじめているんです。検閲官の考えのほうを忖度して、自主的に規制していってるんです。今回の検閲官には思想らしきものは無いんです。実際の文章とかはいっさい見てないで、検閲の内容というのはほんとに空っぽなんです。表現者の内なる検閲ということのほうが、検閲の本体になっているんです。ここまでは言って良い、ここからは言うわけにはいかない、という線引きがどうも編集長や論者にはあるようなんです。それは空っぽなままの検閲官よりも、かえって厳しい基準になっています。現実にはもっと明確な方針がある場合が多いと思うんですけど、近代やこの物語内部では、たぶんこういうように、検閲官はただの壁のようになっていて自主的な方針は無いんです。平和と権威を重んじる長官の命令と、新聞社編集長の方針、この二者のあいだに挟まれていて、原稿をまったく読まないし、さらには文章の内容も理解しがたくなっているわけで、検閲の手順は空洞化しているんです。
 そういう検閲官の空虚な仕事のなかで、ひとつの事件が起きます。外交問題を描いた記事で、クリユキンという作者の革命思想というのが、国家としては見逃せない危険思想なのでは、というような疑いが生じてくる。主人公の検閲官プラトンとしては、クリユキンの記す「革命」という言葉がどうも検閲して削除すべきものに思えてきた。フランス革命については誰もが書いていることであって、これを禁書とするというのは、ずいぶんムチャクチャなんです。もう検閲官プラトンは、ちょっと頭がゆるんでいて「フランス」と書いてあるとぜんぶ検閲して消してしまう。それまではどんな記事も読まずに、全部通してしまって、給料だけもらう変人だったのが、こんどは「フランス」という言葉を消しつづける役人という大迷惑なことをしはじめてしまう。
 いっぽうで、ほんとに検閲すべき、深刻な偽情報の新聞記事は、内容をちゃんと読んでいないので、ぜんぶ通してしまって、長官からお叱りを受けてしまう。そうなると、検閲官プラトンは困ってしまって、すごく大ざっぱに「個人攻撃をしている」ものは深刻な偽情報である可能性があるかもしれないし、これを消しはじめるんです。もうようするに、検閲する能力が無い人こそが、この検閲という仕事をえんえんやっていることになるんです。困っている人が困っている場所にずーっと居つづけるみたいなことが起きている。これは他人ごとじゃ無いなー、とか思いました。ここは苦手分野、というのが誰にでもあると思うんですけど、苦手分野ゆえにそこから抜け出せないわけで、要職でこういうことが起きちゃうと困るだろうなあー、と思いました。ふつうは得意分野のほうに移行してゆけると良いと思うんですが。
 これは検閲官プラトンだけが悪いわけでも無く、二種類の大組織の欠陥部分になっていて、上手く刷新できないのが困るように思います。ついにプラトンは心労で寝込んでしまうのでありました……。本文はもっとユーモラスというか滋味に富んだ小説なんです。中盤から後半あたりから、ため息と苦笑いに包まれる物語でした。
 

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ゲーテ詩集(32)

 今日は「ゲーテ詩集」その32を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 ビジネスマンのためのベストセラー本とか、応援ソングに代表されるような語法が、古典作品の中にそのまんま記されることはけっこう少ないと思うんですけど、今回は、ゲーテがまさにそういうことを書いていて驚きました。そういえば、ゲーテは著名な政治家でもあったので、そのあたりの気力を漲らせて職務にあたる、ということを実際にやったはずで、ビジネスマンの世界観にも通じていることを書くことがあるんだなあ、と思いました。まさか、というような不思議な詩でした。
  

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メリイクリスマス 太宰治

 今日は、太宰治の「メリイクリスマス」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治といえば「女生徒」がおすすめです。
 この物語の序盤……雑踏の中で、ある女性から話しかけられる、誰だったかを思いだそうとして、正体が明らかになる場面があります。本文こうです。
quomark03 - メリイクリスマス 太宰治
 緑色の帽子をかぶり、帽子のひもあごで結び、真赤なレンコオトを着ている。見る見るそのひとは若くなって、まるで十二、三の少女になり、私の思い出の中の或る影像とぴったり重って来た。quomark end - メリイクリスマス 太宰治
 
 この箇所が、物語のはじまりの部分だと思うんですが、みごとな美文に思いました。
 太宰治はユダについて独自の物語を編んでいましたが、キリストについてはどのように考えていたのだろうか、と思いました。
  

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追記  太宰治は、戦時中の大衆や文壇からの評価が高かっただけではなく、戦中の軍部からもいちおうの許可を得て作品を書きつづけた希有な作家で、さらに戦後にもあまたに愛読されました。驚くほど広範囲な読者に読まれた作家だと思います。いかなる状況でも恋を描いたりしていて、今回も中盤にそれが記されています。今回は戦時中に広島で生きた母と残された娘のことが描かれるんです。太宰治は、20世紀後半の中国大陸でもっとも読まれた日本人作家なんです。中国人は太宰治をよく読んだ、という視点から、太宰治の戦中戦後作品を読んでみると、世界文学として広まっていった近代の作品……ということが見えてくるように、思います。アメリカ文化や戦後すぐの社会についてどう描いたんだろうか、というのもちょっと見える作品に思いました。

白光礼讃 今野大力

 今日は、今野大力の「白光礼讃」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはほんの数行の詩で、大雪山と北海道の上川盆地を描きだした作品です。明るい雪の風景です。

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細雪(11) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その11を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 いよいよ、物語の本筋である、雪子のお見合いが始まりました。どうなるんだろうと、ちょっと緊張した場面なのかと思ったら、たんに世間話に花を咲かせるような、華やかな二家族の会食がはじまるのでした。会話文が流暢で、読んでいていちいち興味をひかれます。おもに、お酒のみの家族の楽しさみたいなことが記されます。もの静かで理知的な雪子だから、おっとは酒を楽しめる人のほうが和んで良いのでは、というお話しでした。僕は全然お酒が飲めないんですけど、お酒が楽しければそれは良いなあと思います。ちょっと先まであらすじを見てしまったんですけど、これ、おそらくなにかしらの理由で、このお見合いはポシャるんですよ。それなのに明るいし、穏やかに話が進行する。駄目になる事柄というとふつうの現代海外ドラマとかだと、悲惨に悲惨を上塗りするような事態が起き続けるわけですけど、現実や近代文学の場合は、たいてい「かなり上手くことが運んでいたのになあ……意外と進展しなかったなあ」というような、良さそうな条件がいろいろ見えてくるもんなのでは、と思いました。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記   楽そうに楽そうにみえて意外と苦の展開だった、というのが現実をうまく映し出したこの物語の魅力でもあるのでは、と思いました。