細雪(39)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その39を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 前回の洪水で、やっと被害は止んだところなんですが、その後の安否確認や来訪の様子が描かれています。新聞と電話だけを使う八十数年前の社会が描かれます。
 東京に住みはじめた雪子が、幸子や悦子の様子を見舞いにやってきました。報道で知ったことと、現実の場が食い違っていて、これに驚く雪子なのでした。雪子は悦子と災害の様子について話し、隣家のシュトルツ一家と交流します。ローゼマリーは日本語のイントネーションがみごとなんですが、東京と京都のちがいが分からなかったりするのでした。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

程よい人 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「程よい人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  自分で自分のことを、中道を歩む安定した男だと思っている主人公の話しなんです。日々の労働と借金と恋愛が、なぜか行き詰まってしまって、不幸が押しよせてしまう。
 中道を歩んでいるはずなのに、中途はんぱな悪い結果ばかりに至ってしまう、という人ごとに思えない不幸な男の話なんです。作中に「程好ほどよい」という言葉が15回も記されます。失敗が続いても、これが「程好い」という生きかたを頑なに捨てないところが妙に笑えてくる短編小説でした。
 

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追記  現実が厳しい状態のばあいは、程好い対応というのを心がけていると、かえって危ないのでは、と思いました。
 

引越し 中原中也

 今日は、中原中也の「引越し」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  中原中也は詩集「山羊の歌」がお薦めなんです。今回の随筆では、美文や美徳というものを排して、ただただ、親戚の引越のお手伝いをさせられる文士の「僕」の状況と心情が描きだされます。八十年前の日本では文学では稼げなかったわけで、親に仕送りしてもらってブラブラしている「ブラ公」の日々と思いが記されているのでした。これが……あの「山羊の歌」を書いた詩人の日常なのか、と思いながら読みました。
   

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追記  PC環境を移行中で、更新が2日間ほど滞って……ました。
  

学問のすすめ(10)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その10を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
第10章では、前回までの「学問のすすめ」をまとめておさらいしていて「衣食ができるようになる、というところだけで満足せずに、高遠な目標をもって、交際を盛んにして、世界の進展に貢献する学を身につける」ということが重大と、書いていました。学問にもいろいろあって、飯を炊いたり風呂を清潔に保つのも学問である。ただ、世界全体の経国を改善してゆくといった学問のほうが難しく重要な学問である。近代や現代の学者は、難しいことをやらずに安っぽいことをしがちである、という福沢諭吉の指摘なのでした。学んだことは現実に実践してみよ、と書いていました。また、優れた学生が貧しさによって学が断たれることがないよう、良い環境を与え、学を実践に移せるようにすればもっとも良い投資となるので、経済的な配慮をするように、という記載がありました。
 自由や独立を重んじるなら、同時に義務を果たさなければならない、共同体そのものが自由と独立を得られるだけの環境を持てるように、みなで力を尽くすという義務がある、という話しが書かれています。
 福沢は軍事について、こう書くんです。日本の「文明はその名あれどもいまだその実を見ず、外の形は備われども内の精神はむなし。今のわが海陸軍をもって西洋諸国の兵と戦うべきや、けっして戦うべからず」近代日本の知を代表する福沢諭吉の教えを壊してまで半世紀後に真珠湾で米国に宣戦布告してしまった経緯は、いったいどういうものだったのだろうかと思いました。
 それから、鎖国を辞めたばかりで、まだ国際交流に慣れてない日本のことをこう描いています。「もとより数百年来の鎖国を開きて、とみに文明の人に交わることなれば、その状あたかも火をもって水に接するがごとく」あと農業や産業の自給自足の重要性についても書いています。
「この国に欠くべからざるの事業は、人々の所長によりて今より研究」を盛んにし、学者はこの研究に勤しむべし、と書いていました。
 学問して、自力で独り立ちして環境を改善してゆく、ということを説いていて、飲酒や放蕩を減らして学びに向かう、それには学問と生計の両輪を手にすることが重大だ、と福沢は書いていました。次回に続きます。
 

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 

蟲 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「蟲」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 人嫌いが極まりすぎて隠棲した柾木愛造と、その幼なじみだった女優の木下芙蓉、この2人の物語なんです。サロメを演じる人気女優の木下芙蓉が、じつは柾木愛造の幼いころの女友だちであったことが判明して、この2人が再会することから、奇妙な物語が始まります。
 柾木愛造は幼いころから他人が嫌いで、いつもいじめられていて泣きそうになっていた。彼が唯一恋したのはこの、同い年の木下芙蓉という幼い少女だった。彼女の使っていた、小さくなりすぎた鉛筆を盗んで、宝物としてだいじにしていた、という記憶がよみがえります。池内という男が引き合わせた、この2人の再会は柾木愛造にとって夢のようなひとときだった。ギュスターブ・モローの描きだしたサロメの『出現』という絵画を彷彿とさせる、異様な小説でした。江戸川乱歩の怪奇性が好きな人にとっては、最高傑作と言っても良いくらいの不気味な描写がてんこ盛りでした。
 本作は中盤から、ずいぶん妙な話になるんです。ここからはネタバレなので、近日中に『蟲』を読む予定の方は本文を先に読んだほうが良いかと思います。
 序盤の第三章で、どうも柾木愛造が女優につきまとって事件を起こしてしまったらしい、ということが記されます。どういうことなのか、ということが語られてゆきます。
 どうも池内は、恋仲である木下芙蓉の晴れ晴れしい姿を紹介して、旧友の柾木愛造を羨ましがらせて、からかってやろうとしていたんですが、これが事件に繋がってしまった。事件の真相はどういうものだったのか、というのが徐々に明らかになってゆきます。
 木下芙蓉と柾木愛造の関係は、ここ半年くらいひとつも生じていなかったはずだったんですが、柾木は、池内と木下芙蓉が愛しあっていることに嫉妬して、一方的に憎悪と執心を募らせてしまっていた。そのあと柾木が木下芙蓉を尾行しつづけてしまったのが不味かったんです。付け回して盗み見をしても、負の事態しか生じないのに、これが辞められなくなってしまった。
 彼は犯罪の計画のために、まず自動車の運転を訓練しはじめ、事件の後処理をするための準備を調えた。後半からは、彼の犯罪心理と犯行が克明に記されてゆくのでした。高等な遊民であったはずの柾木愛造の、逮捕されて禁固刑に処されたほうがましなくらい、悩ましく悍ましい日々が綴られてゆくので、ありました。作中に、蟲、という文字が51回も記される、奇怪な小説でした。
  

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
  
追記  AIの人工音声で、伏せ字や黒塗りだらけの怪奇小説を読みすすめると、なんとも異様な読後感になりました。柾木愛造と木下芙蓉は蛆に集られて哀れにも朽ち果てるのでした……。

詩とはなにか 山之口貘

 今日は、山之口貘の「詩とはなにか」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 詩人が「詩とはなにか」ということについて論じている随筆で、山之口貘はこう書いていました。「ぼくは常々、詩を求めるこころは、バランスを求めるこころであるとおもっている」「いたければさすりたくなるこころのようなものだ」
 ここから詩と随筆を入り混じらせたものを記しています。「僕と称する人間がばたついて生きてゐる」という詩の言葉が印象に残りました。自身が探り当てたり発見したものが詩になるので、教えられたり技法どおりに作って、詩が書けるわけではない、それが山之口貘にとっての詩なのでした。後半で山之口はこう記していました。「ぼくは、書くということ、それは、生きるということの同義語のようなものではないかとおもうわけである。」
 wikipediaの「詩」のページにどうやっても書きえなかったことが山之口にとっての詩で、両者を並べて読んでみると、言語のもっとも不思議なところが立ち現れてくるように思いました。
  

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