約束 フィオナ・マクラウド

 今日は、フィオナ・マクラウドの「約束」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 作者はケルト神話からその着想を得ているのだと思うのですが、これは静謐な幻想小説でした。
 ケリルという王と、仙界フェアリーの王キイヴァンの邂逅を描きだしています。キイヴァンはこう述べます。「あなたは私を足で踏んで無礼をしました。私はあなたがた人間界のものではないのです」その罪の対価として「一年のあいだ私はあなたの姿になり、あなたが私の姿になる」ということを告げるのです。この秘密を誰一人「知ってはなりません、あなたの妃も私の同族のものも、あなたの犬も私の犬も」という約束をするのです。お互いに二人の王は、一年を無事に生きるにはちょっとした注意点があると、お互いに告げます。踏みつけられて一年癒えない傷が出来たことをお互いの王が認めあって、この謎めいた約束を実行にうつすんです。
 お互いに入れ替わった生をぶじに過ごつつあるのですが、はじめに警告のあったようにドルカという暗殺者から送られた蛇がキイヴァンを襲うのですが、ぶじこれを撃退できた。襲撃をきれいに跳ね返す、という展開が数回繰り返されるのですが、ほんとに美しい描写で、古事記で言うところのタカミムスビの「返し矢」のような不思議な展開でした。「一年」という言葉が幻視的に綴られます。松村みね子(片山広子)の翻訳がじつにみごとで、すてきな幻想小説でした。終盤のケリルが謎めいていました。
 

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桜 岡本かの子

 今日は、岡本かの子の「桜」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 もう桜前線は東北から北海道あたりに到達する時期だと思うのですが、ちょっとコロナやなんやというので桜をあまり愛でられなかったようにおもって、桜の歌集を読んでみました。ぼくはこれを読むのは3回目なのですが、幾つかの言葉が印象に残りました。狂いという、ふつうは使われない言葉もこんなに美しく記せるのかと、感心して読みました。岡本かの子は、リフレインがとくに上手いと思うんです。同じ言葉を、同じ本の中に複数回ちりばめていて、そのときどきで印象と用い方が異なり、これがみごとなんです。
 
ほそほそとしづくしだるる糸ざくら西洋婦人れてくぐるも
 

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ゲーテ詩集(10)

 今日は「ゲーテ詩集」その10を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 幼子のやる変身の遊びを、大人が出来るようにする……というのも近代詩のひとつの特徴のように思いました。変身譚の文学は古典的むかしばなしには多いと思うのですが、ゲーテは恋愛と変身というのを混在させて描きます。ファウストでも復活と恋愛とが入り混じっているシーンが印象的でした。今回はとくにお薦めの詩に思います。
  

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二人の友 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「二人の友」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 それから……という接続詞を、なぜだか冒頭に用いるところから、この実話の随筆が始まるんですけれども、これは中野重治との交遊を記したもので、友人同士で鍋を食べて、文芸誌や詩について語りあったことを書いています。
 もう一人の佐多稲子(窪川稲子)氏との親交に関しては「この頃、お身体がお悪いさうだけれど、どうしていらつしやるかしら?」という窪川稻子さんへの問いかけの記述があるのですが、調べてみるとなんと、明治37年生まれでありながら、1998年まで長生きされているのでした。これは書いた堀辰雄本人も知らないことで、なんだか大きな時間の流れを垣間見たように思いました。
  

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庶民生活 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「庶民生活」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……近代映画はテンポが遅いから眠くて見ていられない、というような退屈な話しで、ぜんたいの60%くらいが、酔っ払いの様態と、内山と朋子2人に関するノロケ話の連続なんですけれども、後半に来て、急展開の事件が起きます。不審なことを言っていた中村の家で不幸が起きる、それに関して、内山には持論があるんです。生が軽んじられていることについて批判的に記していて、豊島与志雄の死生観が垣間見えるように思います。
 人生を楽しむにしても「慎しみ」の必要性を説くおばあさんを、記してゆく豊島与志雄なんですけれども、戦争が終わって6・7年経ったころの世相を、後半でうまく描きだしているように思いました。
 

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惑い(9) 伊藤野枝

 今日は、伊藤野枝の「惑い」その9を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 伊藤野枝はごく若いころからとくべつな冒険家で、十代のころに九州の今宿で、砂浜から5キロ先にある能古島までひとりで泳いで渡ったそうです。当時は親の決めた嫁ぎ先を完全に拒絶して生きることはとても困難だったはずで、それを親戚の支え無くやってゆくというのがすごく、文芸でもっとも表だった仕事をしていた女性である平塚らいてうと深く関わり仕事を受け継いだ……新しい生き方を何度も創り出した……物語にも記されているように「勇敢」というのを突き詰めていった、生き方に思いました。
 バカバカしいと思うことをきっぱり辞めて出てゆく、という伊藤野枝ならではの思い切りの良さが、物語の展開にも反映されているように思いました。「自分の考えを押し立てる」という伊藤野枝の言葉が印象に残りました。本文こうです。
quomark03 - 惑い(9) 伊藤野枝
 『出よう、出よう、自分の道を他人の為めに遮ぎられてはならない。』quomark end - 惑い(9) 伊藤野枝

 最後の二行が文学的展開で、暮らしぶりはまだ今までどおりであっても、主人公の逸子の心もちは未来における変革を決意して晴れやかである……その描写がみごとでした。
 

0000 - 惑い(9) 伊藤野枝

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第一回から第九回までの全文をはじめから最後まですべて読む(※大容量で重いです)