文字禍 中島敦

 今日は、中島敦の「文字禍」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 中島敦というと、日本を離れて海外に長らく在住し、パラオで語学と教育を研究した、中国文明に詳しい文豪という、印象なんです。その中島敦が、文字と精霊について論じているのですが、これがなんだか重SFというか本格SFみたいな、不思議なことを書いているんです。
 これは……すごい本で、中国の一流の学者がSFを書いたことがあってそれを和訳したものとか、医学者が遺伝学についてSF小説内で論考したとか、そういうレアなSF作品としても、読めるように思いました。
 具体的には、精霊と言語について論じています。そもそも言葉や視覚で表現できないところに、霊という存在があるはずで、言葉そのものに霊が潜むかどうかというのは、太陽に水があるのかとか、水と油が混じるかどうか、というくらい奇妙な乖離のある問いに思います。あまたの精霊の中に、はたして文字の精霊はあるのかどうか。アッシリア文明の老博士の視点から、この謎が追究されてゆきます。
 文字をしらないで生きた人が、文字を憶えてから、どのような変化があったのか、現地調査をするのです。文字を憶えてしまうと、霊的な体験は減退するのではないか。
 あるいは言葉というのが全体がそもそも、霊的活動の代替物のようにも思えます。
 プラトンの述べる「洞窟の比喩」のごとき議論も記されています。読み応えのある小説でした……。
 

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ミイラ取りがミイラになるとか、自己言及パラドックスとかいうことを連想しました。

ゲーテ詩集(8)

 今日は「ゲーテ詩集」その8を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回のは底抜けに明るい詩で、そういう気分じゃ無い状況の自分が読んでみて、呆気にとられてしまいました。聡明な男の、無闇に華美な話しを目の前で聞いたみたいな感覚になりました。ゲーテはおそらく晩年までみずみずしい感性を失わなかったのではないかと、いうように思いました。
 

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外套 ゴーゴリ

 今日は、ニコライ・ゴーゴリの「外套」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ウクライナ生まれのゴーゴリの文学作品を読んでみました。
 ゴーゴリの描く外套は……極寒の地において暖がとれ衣食住がやっと整ったという意味あいもありそうで、ボロボロになった外套をあきらめ、新しい服を手に入れようと決意してこれがやっと実現した時の、主人公の喜びは迫力のある描写に思いました。
これは1840年に記された小説なのですが、このころのウクライナの文化についてはwikipediaに少し記されていました。
 ここからはネタバレになってしまうので、未読の方は本文だけを読んでもらいたいのですが、後半の、事件を解決するためのロビー活動のことが印象に残りました……。要人に対面して折衝を願い出て、これが無碍に廃棄されてしまうのが哀れでした。初見の時は気がつかなかったのですが、正しい側や被害者側は問題解決に向けての努力が必要となってしまい、それらの努力が不運にも壊されてしまうのがおそろしく思いました。有力者の「閣下」の言い分はずいぶんおかしい。有力者は主人公の事情を鑑みず無碍に威圧すると、彼は青ざめてしまいます。翌日から仕事が出来なくなり、病にかかって亡くなってしまう。主人公は新調した外套について誉めそやされて良い気分になって気が緩んでしまい、それが原因で不幸に見舞われ大病に陥っていて、この禍福をあざなう描写が忘れがたいものに思いました。有力者はさいご、死者の蒼白な顔がまるで忘れられなくなるのでした。
 

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ウクライナ情勢に関しては、CNNNHKと、wikipedia、が参考になると思いました。
yahooネット募金にて、ウクライナの緊急人道支援が必要とされています。

寺町 岩本素白

 今日は、岩本素白の「寺町」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは東京の山の手にある『御府内八十八箇所』の寺がある風景を描写した随筆です。岩本素白という作家の文章を初めて読んだのですが、近代の日本画を鑑賞するような、平熱の情景描写が特徴的で、苦についてほとんど述べることなく生老病死を淡々と記しているのが印象に残りました。
 

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惑い(7) 伊藤野枝

 今日は、伊藤野枝の「惑い」その7を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この小説は逸子の家のことだけを描いてきたんですけれども、谷は逸子の夫であるにもかかわらずこの二者の交流はあまり記されてきませんでした。
 谷との会話が、全体の70%あたりからやっと記されてゆきます。二者の言い分は噛みあわない状態です。この小説には奇妙なところがあって、家族4人が居て同じところに住んできたはずなんですけれども、赤ん坊とのかかわりも単簡に記され、一人一人の生き方がそうとうかけ離れているんです。伊藤野枝の独立心が、このようにばらばらで一緒に生きるという、奇妙な人間関係に投影されているように思いました。
 老いた母親が息子を叱る言葉に考えさせられました。本文こうです。
『お前は懐手をしながら勝手なことばかし云っているんだもの、ちっとは、自分で手を出して御覧、それで世間が通ってゆくものだかどうか。』
 伊藤野枝は時代があと30年ちがっているだけで確実に長生きしたはずで、のちにはもっと面白い本を書いたのだろうと思いました。
 

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第一回から第九回までの全文をはじめから最後まですべて読む(※大容量で重いです)

最初の苦悩 フランツ・カフカ

 今日は、フランツ・カフカの「最初の苦悩」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 カフカは子どものころにサーカスの曲芸を見て、いろんなことを空想したんだろうなと思う短編小説でした。
 カフカの『城』でも印象深かったのですが、とにかくただ一つの方針だけに徹することになってしまっている人間の姿、というのをカフカはなぜか描くことがあると思います。ブランコ乗りの曲芸師がもうずーっとブランコの上で訓練を積み重ねて高いところで暮らしている。ブランコから下に降りることがほとんどまったく無い。
 ひとつのことに特化して一本化された状態を継続させる、奇妙な生き方……。現代的な内容に思いました。「最初の苦悩」という言葉をどういうようにカフカが描きだすのか、終盤の1行がみごとなんです。不思議な構成の小説でした。
   

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