怪人二十面相 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「かいじん二十めんそう」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、モーリス・ルブランの「ルパン」やコナンドイルの諸作を連想させるような、探偵と怪盗の対決を描いた少年小説です。作中にもアルセーヌ・ルパンのことについて言及している箇所がありました。
 これが現代化されるにあたって、どういう刷新をするんだろうかというように思うのでした。怪人は存在するのに、どうも目に見えない。怪人は見分けがつかない変装をして、少年だったり秘書の女性だったり老人だったりします。目に見えるのに、正体が見えていない……。振り込め詐欺でのだまし方とか、AIがつくる立体的な偽映像とか、いろいろな幻惑の原形が、江戸川乱歩によって記されるのでした。読んでみると仕掛けがチャチなところがあって子供だましな印象もあるんです。「ピストル」の扱いがとくに玩具っぽい記載で、この近代レトロな雰囲気が、読んでいて魅力的に思いました。「探偵七つ道具」とか、豪邸のダイヤモンドとか、「予告の手紙」とか、あまたの警察官が押しよせる場面とか、驚きの要素が目白押しになっているのが、なんだかすてきな小説でした。
  

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 第一部で怪人が宝石を盗み出し、中盤からはじまる第二部の「美術城」の中盤から、海外渡航中だった、名探偵の明智がやっと登場します。ところがこれが、明智では無い怪人だった。違法薬物の捜査官は、ドラッグ使用者と仲良くなるために、ジャンキーと同じ行動をして油断をさせて状況を探るらしいんですけど、名探偵の明智もじつは、怪盗を油断させるために、盗賊たちとそっくりな行動をするのかもしれない、と思わせる展開でした。怪人と探偵が混交し入れ替わる場面がおもしろく思いました。最後の最後に、博士に変装していた怪人の正体が暴かれ、逮捕されてもあっさり身をくらませてしてしまうのが、みごとでした。これは逮捕後もいつのまにか脱獄しそうに思えるのでした。
 哲学者のクリプキが論じた、言語の謎のことを連想させる、不思議な物語でした。クリプキは「68+57=125」というようないっけん完璧に思える規則も、とつじょ怪人の変装のように、様相を一瞬で変えることがあり得ることを、論理的に指摘したのでした。三十一章にわかれた作品ですが、羽柴家ダイヤモンド篇、「美術城」篇それから国立博物館編という、おおよそ三部で構成された小説でした。

 

細雪(33) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その33を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦後すぐ1945年の9月に広島で大規模な台風と水害が起きたのですが、谷崎はこの時代に「細雪」中盤後半を書いているんです。今回、谷崎は1938年7月の阪神大水害のことを書いていました。蒔岡一家の妙子や幸子やその娘の悦子が、芦屋で水流に飲まれそうになりながら、家族や町民の安否について心配をする、という内容でした。ドイツ人一家のことも記されています。
 これは今までの細雪の展開とは明らかに異なる内容で、序盤を書いていたころの谷崎の文学性と、異なる事態を書こうと思ったのでは、と思いました。第二次大戦の旧帝国のことや大空襲のことを文学に書くことがむずかしい、戦中戦後すぐのころに書かれた長編文学ですので、大空襲のことを作者や読者が連想しながら文豪が水害のことを書くというのは、読者に響く描写のように思いました。戦争被害の現場で、安否についてずっと惑いつづけるということは常に起きてきたはずで、これが大水の現場に居た人々と共通した、人間的な心情なのでは、と思いました。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

少女地獄 夢野久作

 今日は、夢野久作の「少女地獄」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代でいちばんヤバイ作家といえば、まちがいなく夢野久作だと思うんですが、今回は氏の代表作のひとつの「少女地獄」を読んでみました。
 姫草ユリ子の不幸と「地獄絵巻」について「小生」が述べ始めるところから物語が始まります。「彼女は、貴下と小生の名を呪咀いながら」夭折してしまった。読んでいるとなんだか、ホラー映画よりも不気味な内容が序盤から目白押しなんです。
 はじめは、姫草ユリ子との出会いの場面が描かれます。そこでは住むところの無い、可哀想な少女の姿が描きだされるんです。ある病院の医院長である「私」は、姫草ユリ子を雇ってあげる。身体の汚れを落とすと、驚くほどの美少女だった。はじめは可憐で働き者の彼女に満足していたんですが、だんだん妙なことになって来る。真面目な少女の致命的な嘘が膨らみ続ける。姫草ユリ子は真相がばれてしまうと、ひどい状況になってしまうような致命的な嘘を積み重ねるという、おそろしいことをつい好んでやってしまう。年齢も詐称していた、実家も詐称していた、職歴も詐称していた、結婚詐欺師くらい徹底的に嘘だらけだった、その実体を探った「私」は、畏るべき事態に遭遇する。姫草ユリ子の破綻を中盤から後半にかけて追ってゆくという展開でした。ドグラマグラでも思ったんですが、今回も病院の暗部が描かれるのでした。夢野久作は、大病院の巨大な詐称ということに深い関心があったのでは、と思いました。この「少女地獄」の「何んでも無い」は中盤で完結します。後半からは「殺人リレー」や「火星の女」という別の小説が記されています。廃墟にたたずんで、校長先生の不正を暴くために聞き耳を立てている、暗闇の少女の姿がじつに不気味でした。
  

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断片 寺田寅彦

 今日は、寺田寅彦の「断片」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 馬車が倒れて、馬が怪我をしてしまったのを見た、というところからこの随筆の描写がはじまります。動物虐待防止という言葉そのものは嫌いなのだが、じっさいに馬が苦におちいっている様子を見ると感情移入をしてしまう、というように書いていました。「馬の方は物を云わないから」かえって「余計に心をひかれ」てこの馬のことが忘れられなくなる。
 断片、と書いているようにこんかいの3つの随筆にはあまり関連性が無いんです。
 寺田寅彦は、趣味で風景画を描いているときも、地形を科学的に分析していて、なんだかすごいんです。友人に贈りものをするときにも、どうも哲学的なことを考えている、寺田寅彦なのでした。
 

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学問のすすめ(4)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その4を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は、政府と知識人の良い関わりと、悪い関わりのことを書いていました。ほかにも権力を怖れてはならないとか、権力に媚びへつらってはならないとか、書いていました。
 前回、国が独立するには個々人が独立していないといけない、ということを説いていました。今回は、国力がつくには、人々が賢くなって学術や商売や法律をそれぞれ独立して個別に発展させないといけない、それにはどういう人が重要か、ということを書いているんです。福沢諭吉は「学術・商売・法律」が他国と比べて劣っている理由があるはずだと論じています。
 それはこれらのとくに学術や洋学を担う中心人物たちが、古い儒教の影響もあって、日本の権力に媚びへつらっていて権力から独立できておらずにひどい状態だからだ、というように福沢諭吉は指摘していました。政府に頼らなくても、学術を深めたり豊かに生活したりできるはずなのに、多くの近代知識人はそれが出来ないと思い込んでいるのがまずい、という指摘でした。たしかに近代でも、牧野富太郎博士とか、宮沢賢治や、与謝野晶子が、独立して学問を深めていたように思えます。
 今回はとくに、数十年後という近未来の不都合について論じようとしていて、これが日本近代史における負の年表と見比べると、福沢諭吉が憂慮していることと、近代日本の問題が適合しているところが多く、読んでいて呻る箇所がいくつもありました。
 あと、愚かにならないためには芸や能力を個別にみがいて、他人に媚びなくても豊かに生きられるように学びましょうということを前回と今回で書いていました。
 作中で「○○なかるべからず」というのは直訳すると「○○無いことはぜったい無い」という感じで「○○しなくてはならない」という意味です。現代ではほとんど使われない二重否定の言葉です。「飲食なかるべからず」というのは「飲食しないといけません」という意味です。
 

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する

 賢い人も集団の中に入ると、恥を忘れて愚かになってしまう近代日本の問題点も指摘していました。権力者は、ごまかしを用いながら、人々が賢くなるのを待つものだが、権力者と人々は過去にあった負の仕組みに囚われていて、両者の溝はなかなか埋まらない、というのはなんだかすごい指摘に思いました。
 

カラー アンデルセン

 今日は、アンデルセンの「カラー」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 collarカラーというのはワイシャツのえり、のことで、今回はこのワイシャツの「カラー芯」とか「カラーキーパー」とかいわれる、シャツのエリにはめ込む小さな板のことを、カラーと記しています。カラーがいろいろ話し込む、なんだか可愛らしいお話しなんです。
 

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 最後がちょっともの悲しいんです。アンデルセンは、百数十年も愛読された作家なんですが、個人的な恋愛はもの悲しいものが多かったらしいです。