春深く 久保田万太郎

 今日は、久保田万太郎の「春深く」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 二十九歳の春に、群馬県の磯部を旅した。
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  磯部を選んだのは、島崎(藤村)先生のたしか「芽生」のなかにそこのことが出て来るのと岡本(綺堂)さんが、その少しまえ、そこへ暫しばらく行っていられたというのを聞いたのと、そうした二つの理由からだった。quomark end - 春深く 久保田万太郎

 島崎藤村と岡本綺堂が好む旅先ということで、文学的な空想を脹らませながらこの地を訪れた「わたし」は、奇妙な事態に遭遇します。
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 切符をわたして思った以上に小さい、人けのないガランとした停車場の構内を出ると、繁り切った桜の嫩葉わかばの、雨を含んだ陰鬱な匂がしずかにわたしに迫った。——あたりはもう灯火のほしいほどに暮れかけていた。
「鳳来館まで。」
 二、三人、わたしをみてそばへ寄って来た車夫の一人にわたしはいった。quomark end - 春深く 久保田万太郎
  
 期待して訪れた宿は、ずいぶん寂れていて汚かった。一人でなにも持たずに、文豪が好む、噂の場所を訪れても、なにも起きなかった。本文こうです。
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  要するに、島崎先生と岡本さんの好みにあうところならと思ったのがそもそもの間違いだった。島崎先生なればこそ、岡本さんなればこそ、それぞれ折合えるものもみ出されたのである。(略)風の絶えた墓原のようにわたしには心細い場所だった。quomark end - 春深く 久保田万太郎
 
 空虚で漠とした描写がかえって、奇妙な旅情を捉えているように思えました。日本近代の随筆の特徴がよくあらわれた作品に思いました。
 

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ゲーテ詩集(56)

今日は「ゲーテ詩集」その56を配信します。縦書き表示で読めますよ。
「娘たちとは仲よくし/男たちとはなぐり合ひ/……/心の底から愉快でいろ」というゲーテの豪快な詩でした。闘うシカみたいなことを人間の世界で実現する方法……のようなことを書いているのでした。
 

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疲れやつれた美しい顔 中原中也

 今日は、中原中也の「疲れやつれた美しい顔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはほんの一頁の詩です。疲れやつれた美しい顔……を、たとえる時の詩の言葉が印象に残りました。中原中也の詩を読み通してみたくなるような一篇の詩でした。
 

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中原中也の詩集は「山羊の歌」がお薦めです。……「香となつて籠る壺」。

殺人行者 村山槐多

 今日は、村山槐多の「殺人行者」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 村山槐多は日本中のあまたの美術館に作品が収蔵されている有名な画家で、その槐多が記した小説がこれなんです。槐多はまずこう記します。
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  自分は画家であるが自分の最も好む事は絵を描く事でなくて『夜の散歩である』quomark end - 殺人行者 村山槐多
  
 画家の「自分」がある居酒屋にたどりつくと、なにか騒動が起きている。そこにやって来た客の1人、「いかにも品よき影の見える……狂人と呼ばるる男」と知り合う。この男を連れて、2人で自宅に帰りついた。そして自宅の画室のなかで2人で、じつに謎めいた話しをした。ここから作中作になっていて、この謎の男は資産家の子で、名を「戸田元吉と云う」んです。お金がいっぱいあるので、長らく旅をしていた。
 戸田はこう告白するんです。
quomark03 - 殺人行者 村山槐多
  僕は豊子の事を語り出づる時激しい苦痛なしでは居られない。此最愛の女を僕の此手が殺してしまつたのではないか……決して決して自分は豊子の事が忘れられない。quomark end - 殺人行者 村山槐多
 
 豊子と知り合ってすぐに結婚をして「楽しき新婚生活の一年後の夏」に「豊子の友人の貴族の別荘」を訪れた。案内人は、この山荘ですごすのは辞めたほうが良いと警告するんです。この山にはなんども盗賊が現れていて、事件が起きている。「賊は一種異つた人間で強奪を行ふ時必ず人を殺す、その方法は常に同一で鋭利な短刀で心臓を見事に刺してある、だから未だ曽て一人でも実際に賊を見たと云ふ者がない。見た者は必ず殺されるからである」
 戸田元吉は山奥で、古代の石室を発見するんです。『どうしてこんな山中にこんな貴族的な棺があるのだらう』と思う。棺の奥にさらに縦穴の通路があった……。ここに恐ろしい盗賊がいるかもしれない。ここで思わぬ人と出逢った。殺人行者と呼ばれる男との対話が描きだされました。つづきは本文をご覧ください。
 村山槐多はデッサンが歪であるように見受けられるのに、すごい迫力の作品を数多に残しているのが謎だ、と思っていたんですが、この小説を読んだらなんだか腑に落ちました。神秘的な話しを書くもんだと、驚く作品でした。
 

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細雪(32) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その32を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語は、父が不在である、ということが序盤から記されていたんですが、これに関する言及はほとんどなされなかったんですが、今回このことがこう明記されていました。「父が全盛時代に染めさせたこの一と揃いは、三人の画家に下絵を画かせた日本三景の三枚襲ね……」
 父が居たころはぜいたくで上品な暮らしぶりだった。「細雪」が書かれたのは大戦末期のころなんですが、作中の時代は1941年ごろです。
 また知り合いが、アメリカのハリウッドの映画会社で働こうとしていたことや、舞や寿司といった日本文化のことや、国際的な交流のことを今回もいろいろ記していました。日本の戦後のことを誰よりもいち早く捉えて書いていて、戦後にはこの本が世界的な人気を得た、と思いました。
 家族や皆の前で舞を踊るように、姉から依頼されて、妙子は豪華な和服を着て踊り、ロサンゼルスで写真術を学んできた板倉がこれを撮影しました。妙子は、東京に行った雪子が今回のつどいに参加できなかったことを残念に思うのでした。ドイツの少年が妙子の舞を、ほんとに熱心に見つめている、という描写がずいぶん印象に残りました。
   

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。 ※ 人名を書き間違っていたのを、少し訂正しました。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

ねずみの冒険 小川未明

 今日は、小川未明の「ねずみの冒険」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ネズミ取りにひっかかったネズミをどうやって処分しようかということで悩む主人がいるんですが、これがずいぶんものぐさで、めんどうくさがりな男で、猫にやらせようとしたり、いろんな方法を思いつくんですが、ぜんぶ具体的にやるにはだるいのでやってられない。『あまりにも……ものぐさすぎるハンター』というテーマで短編小説を書いたらずいぶん奇妙な物語になるのでは、と思いました。これは童話なので、もっと牧歌的な内容で、後半はネズミを助けたい少年が主人公になったりするのでした。
 

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