脱殼 水野仙子

 今日は、水野仙子の「脱殼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 心情の変化を、不思議な文体で構成している小説でした。ところどころで、詩的な表現に目が止まって、その情感に魅入られます。展開が奇妙で、表現が大げさだからなのか、前半は読みにくいところがあるんですが、全体を読み通してみると、心もちの微妙な変化を捉えた部分部分の言葉が魅力的な、詩小説になっているように思う短編でした。本文をいくつか抜粋してみると、こうです。
quomark03 - 脱殼 水野仙子
  猫でも貰はう と ふと思ひついたことが 一つの楽しみになつて / 
 どんな言葉をもつて、あの人を迎へるだらうと、自分で自分の心を想像などしながら、寝巻も着替へないで、そのまゝ床の中に潜り込んでしまふ / 
 私の心は、人気のない大きな伽藍のやうに空虚になつて、どんなかすかな物音にも、慄へるやうな反響を全身に伝へる / 
 私は私の耳が、丁度猫の耳のそれのやうに、ひくひくと動くやうにさへ思ふ。quomark end - 脱殼 水野仙子
 

0000 - 脱殼 水野仙子

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人工心臓 小酒井不木

 今日は、小酒井不木の「人工心臓」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 小酒井不木と言えば怪奇小説を書く近代作家だと思うのですが、今回は医療系SF小説で、人工心臓を作るためにあまたの実験を繰り返し、異様な研究を完遂する学者の、奇妙な告白の物語なのでした。
 爪や歯といった身体の一部を機械化しても人間だけれども、全てを機械に取り替えた場合はこれはもう人間では無い、それならどこからどこまでが人間なのか、という「テセウスの船のパラドックス」のような哲学問題を連想させる小説でした。

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四季 槇村浩

 今日は、槇村浩の「四季」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは四季おりおりの情感を童心とともに記した、ちょっと謎の詩で、他の槇村浩の諸作では深刻な政治闘争問題を主題としたもので今回の詩と、かけ離れているところがあるようです。
 四つの季節を描きだしているのですが、秋の詩がなんだかすてきでした。
 

0000 - 四季 槇村浩

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幻の塔 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「幻の塔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだか暗い事件が起きる小説で、ネタバレ禁止の内容だと思うので、近日中に読み終える予定のかたは、先に本文を読むことをお勧めします。廃仏毀釈が激しい時代に、仏像を買い集めては売り歩き、さらに仏像を彫って大金を得た「ベク助」、このベク助というのが危険な男なんです。かつては「人殺しと牢破り」を行った、背中には天下一品の「ガマと自雷也」の入れ墨を彫っている極悪人で、この男が牢破りののちに熊に襲われて人相が変わって、ベク助という名前の、大工として生きていた。
 いっぽうで勝海舟の家の近くに「島田幾之進という武芸者が住んでいた」のですが「白頭山の馬賊の頭目」だとか「海賊」だとか言われた人たちがここに道場をひらいた。島田一族は「黄金の延棒が百三十本ほどつまって」いる大袋を手に、この新設の道場にやって来た。
 ものすごい武芸者が修業をしているこの「島田道場」には奇怪な秘密があって、この道場を建てるときに、忍者屋敷のような「縁の下から抜け道をつけてもらいたい」ので、秘密を守れる大工というのを特別に呼びよせたのでした。中盤からベク助は素性を偽って、この島田道場に耳の不自由な大工として雇われて、島田一門の秘密を暴くことにしたのでした。
 どうも、素性を偽っている怪しい人間は他にもいろいろいる。仏師や大工としての才覚があるベク助は、「怪物」の島田幾之進に頼まれて、道場に秘密の仕掛けのある「小さな別宅」をつくりあげた。
 ベク助はこれで島田道場から離れていったのですが、秘密裡に、この道場の秘密を探っていたんです。
 この島田道場での「婚礼の夜」に、誰もが酔いつぶれていて「誰にも明確な記憶がない」という状況で「怪物の邸内で奇怪な」事件が起きてしまった。「お紺の父の三休と兄の五忘」が「密室殺人」で亡くなってしまい……警察と、隣家の勝海舟と、その親友の探偵である「結城新十郎」がやって来ます。
「父と兄が麻の袋をぶら下げてい」たという証言があった。かつて「島田幾之進」は、この新道場にやって来たときに「革の行嚢に金の延棒を百三十本ほどつめこんでぶらさげて来た」ということだったが、この金の延べ棒がどこに行ったのか分からない。
 真相としては……犯人は召使の金三で、「金三はベク助が三休、五忘の命令で縁の下に抜け道の細工を施したのを見ぬいていました。金三は忍びこむ五忘らを地下の密室で殺す必要があった。(略)それは当家に犯人の汚名をきせるためと、たぶん、金の延棒の発見、没収を策すためでしたろう」ということを探偵が暴くのでした。それで「金の延棒の隠し場所」はじつは「皆さん一番よく見ていたもの。あんまりハッキリ見えすぎるので、気がつかなかった」「まぼろしの塔」とも言いえる、道場の特殊なつくりなのでした。見えすぎていて見えない、という仕掛けがあったのでした。「道場の土間の敷石をごらんなさい。それがみんな金の延棒なのです」というオチでした。
 この島田一門の正体というのは、冒頭に記載されているように「白頭山の馬賊の頭目」で「シナ海を荒した海賊」で、事件後しばらくして、また何処かへと去っていったのでした。
 

0000 - 幻の塔 坂口安吾

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二人の男と荷車曳き 夢野久作

 今日は、夢野久作の「二人の男と荷車曳き」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 夢野久作といえばとにかく無茶苦茶なことをどこまでも書ききるという作家だと思っていたんです。こんかいの短編では、ほとんど異変らしい異変は起きない、すぐに終わる掌編なのですが、氏の「ドグラマグラ」や「少女地獄」がなぜ書かれたのか、その謎の解明になりそうな二つの事柄が記されているように思いました。力自慢の男二人が決闘をするときに、なぜかはじめに銃撃戦になって、能力がまったく互角であるために、弾丸がどれも中空でぶつかり合ってしまって無効化されるという、近代小説にしては珍しいメタ的な展開があるというのと、中盤後半でトリックスターの役割として出てくる「荷車曳き」が、力自慢の二人を操って——彼が自分の意図をさいごに明かします。「ててお出でになる無駄な力を拾っただけです」という……これがじつは「ドグラマグラ」の執筆を可能とした、動機の一部でもあったのではと、いうように空想しました。
 

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好奇心 織田作之助

 今日は、織田作之助の「好奇心」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは新聞の片隅に載せられた掌編小説です。最初の数行はたどたどしい文体で、これは主人公の女性の急いた心情を書きあらわしているのかと思うんですが、事件の被害にあった知り合いを腐すことからはじまって、事件への好奇心を語る構成でした。
 最後はちょっと納得のゆく展開になるんですが、終わりの1行で、なんだか腑に落ちました。
  

0000 - 好奇心 織田作之助

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