年とったカシワの木のさいごの夢 アンデルセン

 今日は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「年とったカシワの木のさいごの夢」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはアンデルセンの代表的な童話で、題名どおりカシワの木が主人公で、生き物たちと話しこんだり、眠ったり、祈ったりする物語です。クリスマスの美しい情景とともに描きだされる、自然界のいのちのありさまを記す童話でした。
 

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ぼくはこれをほとんど初見で読んで、アンデルセンの諸作の中でも、とくに優れた物語に思いました。子どもが読むための本なんですが、本作は大人が読める内容になっているように思いました。自然界の描写が現代人とは比べものにならないほど念入りに描かれていて、それが生きものの生老病死と繋がって記されるもので、秀逸な小説だというように思う作品でした。とくに前半に登場する、ほんの1日だけしか生きられないカゲロウと、数百年も生きるカシワの木の、心温まる会話劇がみごとであるように思いました。カゲロウの思いというのが、さいごのカシワの思いとも繋がっていて、作中の発言にあるように「わしの愛するものは、みんな、いっしょなのだ。小さいものも、大きいものも。みんな、いっしょなのだ」というところに印象深く響いてくる、クリスチャンの童話らしい童話というように思う作品でした。老いたアンデルセンがこの物語の中で生き生きと語っているような、童話に思いました。

秋の瞳(14)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その14を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は、八木重吉のもっとも有名な詩「心よ」が記されていました。
quomark03 - 秋の瞳(14)八木重吉
 こころよ
 では いつておいで
 しかし
 また もどつておいでねquomark end - 秋の瞳(14)八木重吉
  
 作中に記された「いいのだに」という一文は、方言なのかと思ったのですが、調べてみると大辞泉という辞書では「いいのだからなあ」と「軽い感動の意を添える」という意味なのだそうです。または「いいのだから」という意味でも使われるそうです。
 

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外科室 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「外科室」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 泉鏡花といえば、その名の通りというのか、自然界と性を美しく描きだす、耽美的な近代作家だと思うのですが、今回は、外科手術をする女性を観察させてもらった画家が、その細部を克明に描きだした、妖しい文学作品となっていました。
 麻酔で女性が眠りはじめるところから描きだされるのかと思いきや、麻酔も無しで自らの人体を切り刻むように婦人は要請するのでした。麻酔によって意識が朦朧としてうわごとを言いはじめてしまうところを、家族や親友に見られたくないという理由で、麻酔無しの、ありえない開胸手術が執り行われ、画家の「私」はこれをまのあたりにして慄然とします……。
 

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追記  以降ネタバレを含みますので、近日中に読み終える予定のかたは、ご注意ねがいます。執刀医の高峰はじつは、この婦人と九年前に邂逅しており、まるでダンテとベアトリーチェの映し鏡のように、貴船伯爵夫人は、一瞬のうちに永劫の恋に落ちていたのでした……高峰が婦人の胸を開くところを見届けたいがゆえに、彼女は麻酔を拒絶したのです。手術は思わぬ展開で失敗に終わり……凄惨な愛欲に塗れつつ婦人は身罷るので、ありました。

暗い天候 中原中也

 今日は、中原中也の「暗い天候」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 中原中也「山羊の歌」の「冬の雨の夜」の、続編としての詩が、この「暗い天候」なのだそうです。
 秋から冬へ向かう暗さが、暖房の効果が得られない百年前では、今と比べものにならなかったのでは、というように思う近代詩でした。近代の魅力が凝固したような詩に、思いました。「畜生」という言葉が詩の中で描きだされていて印象に残ります。
 quomark03 - 暗い天候 中原中也
 犬が吠える、虫が鳴く、
  畜生! おまへ達には社交界も世間も、
 ないだろ。着物一枚持たずに、
  俺も生きてみたいんだよ。quomark end - 暗い天候 中原中也
 

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雪の女王 アンデルセン

 今日は、アンデルセンの「雪の女王」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 
 これは小学生が読むための童話で、7つの短編が連なった、連作になっています。おもに「雪の女王」と少年カイと少女ゲルダ、それから粉々にくだけた悪魔の鏡のことが描きだされる物語です。
  

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追記  少年カイの身体に、砕けた悪魔の鏡のかけらが入りこんでしまって、子どもたちを凍えさせる雪の女王とカイの2人が、結びついてしまい、カイとゲルダは離ればなれになって生きることになるのでした。ガラスのかけらをどうやってカイから取り出すのか……というところが終盤での物語の要点となっていました。
 悪そうなことをいつもしている山賊の娘が、ゲルダやカイと深く関わってゆくところが魅力的に思いました。やっと家にたどりついたのちの、終盤の10行がなんともみごとな、美しい童話でした。
 

細雪(60)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その60を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 京都観光をしてきた三姉妹たちだったのですが、日帰りの旅の途中で娘の悦子が、高熱を出して、そのご寝込んでしまった。医者によると猩紅熱であるというのでした。感染症ではあるのですが自宅で療養をすることになって、貞之助の書斎を病室につくりなおして、簡易的な隔離施設としたのでした。この「細雪」の序盤では、自宅で注射を打って体調管理をする、妖しい気配の姉妹のさまが描かれてきたわけで、コロナ禍での自宅療養の報告がさまざまにあった現代に読んでも、なんだかリアルに感じる日本小説に思いました。
 我欲を押し通さないという静かな性格の雪子が、消毒を重んじつつ、病身の悦子のお世話をすることになりました。10日から1か月ほどの看病が必要になって、東京に帰るはずだった雪子は、長いこと関西で暮らすことになりました。
 隣家の旧シュトルツ邸には、スイス人のボッシュ氏が暮らしはじめます。このスイス人は繊細な男のようで、幸子の家の犬が吠えたり、蓄音機が音楽を奏でることに、手紙にて、苦情を申し入れてくるので、ありました。
 動乱の時世に、静かで繊細な、とくになにも起きない生活のこまごました事情を書きつづけることに、特異性を感じる文学作品に思いました。
 今回は中国出身の「アンナ・メイ・ウォン」という女優にそっくりな、ボッシュ家の美しい奥様のことが記されています。
 戦後すぐに、欧米で広く読まれた氏の代表作だなあと、納得のゆく描写が続きました。細雪を全文読まないけれども、内容をちょっと知りたいという方は、今回の章を読むことをお勧めできると思います。
 悦子の病気が自己療養で治るところの描写が生々しくて、これが今回の、谷崎潤一郎ならではの、きわだつ悪趣味なのでは、という印象でした。
 この妙な家族の状況で、独り立ちしたい妙子が突然、1人で東京行きをすることを告げるのでした。話しを聞いてみると、人形作りや洋裁の技術で妙子が独立するためには、東京で洋服店を経営するのが良いはずという案があるのですが、その裏には、フィアンセ候補の板倉が、金策のためにそういう実現しそうにない計画を打ち立てて、親族から金を引き出す狙いがあるのではという考察がなされていました。長女の鶴子はこの計画を完全に否定するはずなんです。次女の幸子は、末っ子の妙子の幸福を願ってはいるのですが、今回はどうも助力が出来ずに、黙ってなりゆきを観察することになってしまいそうです。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)