今日は、坂口安吾の「握った手」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
おおよそ百年前のこの短編の恋愛小説を読んでいて、これは現実にはあり得るんだろうかと思って、もしかすると百年前の映画館は今よりもっと幻想的な空間だったのでは、というように思いました。
安吾は本作での出会いの内容を「出会いは甚だしく俗悪で詩趣に欠けている」と書きつつ、映画館で思わず見知らぬ娘の手を握ってしまいそこから話しはじめて交際に至ったという、妙なことがらから始まる二人の会話劇が展開します。お互いに一目惚れして、警察に通報もされずにすんなりと交流が始まるんですが「松夫はちかごろ考えすぎるようで」、彼女はどんな男とでもすぐに仲良くなってしまうのではという邪推が生じてしまうのでした。
さらに松夫は新しい女性を見つけてこれもまた無理やりに口説こうとしてしまう。松夫の性急な態度と発言に呆れかえった水木由子は「強引すぎ」て「悪」い人間にしか見えないということを告げて去ってゆくでした。そのあと松夫は……。
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松夫は「就職もダメだし、試験もダメ」で「革命」的な「アイビキ」もまるで成功せず「たった一日の革命以来、急速度に没落してしまった」のでした。中盤をすぎてから、実際問題どうやって就職をしようかという悩みを二人で話しあいはじめるあたりから、身におぼえのある人生の一節だったのでのめり込んで読めました。後半から安吾の人間賛歌というのか、人を鼓舞する記載があり、その文章に魅入られました。