元八まん 永井荷風

 今日は、永井荷風の「元八まん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 東京都江東区は東陽の十間川あたり、現代で言う東京都現代美術館の南のほうの川、このあたりから東京メトロ東西線と同じ方向に荒川への道のりを散歩していて、偶然にも鎌倉の元八幡宮の分社を見つけた、永井荷風の風景画でした。
 荒川に着く前の、葦が水溜まりに生い茂るところに荒れはてた元八幡宮を見つけ、荷風もたびたび訪れた娼館に関わりのありそうな人物とすれ違ってゆく。電車がやって来る場面が印象的でした。本文こうです。
quomark03 - 元八まん 永井荷風
 電車の窓に映るものは電柱につけた電燈ばかりなので、車から降りると、町の燈火とうかのあかるさと蓄音機のさわがしさは驚くばかりである。ふと見れば、枯蘆の中の小家から現れた女は、やはり早足にわたくしの先へ立って歩きながら、傍目わきめも触れず大門の方へ曲って行った。狐でもなく女給でもなく、公休日にでも外出した娼妓であったらしい。quomark end - 元八まん 永井荷風
  
 荒廃した元八まんは、ほんの1年後には建て替えられて新しい姿になっていた……。
 

0000 - 元八まん 永井荷風

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 

雪の夜の話 太宰治

 今日は、太宰治の「雪の夜の話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「スルメを落してがっかりするなんて、下品な事で恥ずかしいのですが、でも、私はそれをおねえさんにあげようと思っていたの。」というところから始まる短編小説です。お土産の食べ物を落としてしまった代わりに、雪景色の美しさをおねえさんへのお土産にしようと思いつく幼子の話なんです。
 戦中戦後すぐの近代小説の中で、この作品はとくに当時の貧しさを念入りに描きだした小説に思いました。
 美しい心もちと、尾籠びろうな話しとが2重に積み重ねつづけられる、奇妙な展開の物語でした。
 

0000 - 雪の夜の話 太宰治

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 

細雪(57)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その57を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 四女の妙子が、おさく師匠の追善供養で、舞を踊っている、そこに彼女の婚約者の板倉が、しきりに写真を撮っているという展開でした。
 四女で未婚ということで、20代前半なのかと勝手に思い込んでいたんですが、妙子は29歳で「もう芸者ならば老妓と云ってもよい年頃」だと記されていました。戦時中の追善の舞であっても、読んでいると、雅で美しい催しであったように思われます。また幸子がしきりに心配していたように、金持ちボンボンの不倫男奥畑はやはり、妙子と板倉の親睦の邪魔をするので、ありました。カメラで婚約者の舞を撮影していた板倉だったのですが、奥畑啓坊が難癖をつけてくる場面がありました。
 幸子は雪子と話しをしていて、妙子は自由に生きすぎて「あたし等は迷惑してる」「あんな板倉みたいなもんと」結婚の約束をしてしまって、という愚痴を言うんです。
「あたしと雪子ちゃんとで、何とか思い直すように代る代る云うて見るより外、方法ないねん」と、幸子と雪子は語りあいました。次回に続きます。
 

0000 - 細雪(57)谷崎潤一郎

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

燈籠 太宰治

 今日は、太宰治の「燈籠」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治は、作家である己自身を主人公にして小説を書くことが多いと思うのですが、こんかいは「私は、まずしい下駄屋の、それも一人娘でございます。」という記載ではじまる、ひきこもりがちな女性を描きだした小説になっています。太宰治の代表作は、ほかに「女生徒」がお勧めです。
 本文の序盤に「わがまま娘が、とうとう男狂いをはじめた、と髪結さんのところから噂が立ち」と記されています。
 不幸な境遇も語られていて……「地主さんの恩を忘れて父の家へ駈けこんで来て間もなく私を産み落し、私の目鼻立ちが、地主さんにも、また私の父にも似ていないとやらで、いよいよ世間を狭くし、一時はほとんど日陰者あつかいを受けていた」
 そこから五歳年下の水野さんとの恋愛のことが記されます。「水野さんは、みなし児なのです。誰も、しんみになってあげる人がないのです。もとは、仲々の薬種問屋で、お母さんは水野さんが赤ん坊のころになくなられ、またお父さんも水野さんが十二のときにおなくなりになられて、それから、うちがいけなくなって、兄さん二人、姉さん一人、みんなちりぢりに遠い親戚に引きとられ、末子の水野さんは、お店の番頭さんに養われ」という境遇の……水野さんのことばかり考えて、さき子は毎日暮らしていました。
 それがある事件をきっかけに、急に小説の内容が変じます。
「私を牢へいれては、いけません」という発言から、なまなましい「さき子」の思いが描きだされていました。太宰治は作家になるまえに、無理心中をしようとして愛人を犠牲にしていて、そこに罪の意識があったはずで、このように罪人の心情を、仔細に記せるのでは、というように思う場面描写でした。
 貧乏で困っている水野さんのために、「さき子」は男性の水着をお店で盗んでしまい、犯罪が見つかって見知らぬ男に平手打ちされ、留置所に連れてゆかれて、恥ずかしい動機を熱弁し、狂い笑い、さらに新聞でさらされるという恥辱の体験を語りつづける、少女の物語、なのでした。本文こうです。
quomark03 - 燈籠 太宰治
 その日の夕刊を見て、私は顔を、耳まで赤くしました。私のことが出ていたのでございます。万引にも三分の理、変質の左翼少女滔々とうとうと美辞麗句、という見出しでございました。恥辱は、それだけでございませんでした。近所の人たちは、うろうろ私の家のまわりを歩いて、私もはじめは、それがなんの意味かわかりませんでしたが、みんな私のさまのぞきに来ているのだ、と気附いたときには、私はわなわな震えました。quomark end - 燈籠 太宰治
 
 「さき子」はあやうく身罷ってしまうほどの恥をかいて、混乱していたところ、水野さんからの親身な手紙をもらい受け、父と母のなんということもない優しさに触れて、じぶんの生きかたを取り戻すのでした。
 

0000 - 燈籠 太宰治

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
 ちょっとびっくりするほどすてきな文学作品でした。ほんの十数ページで終わる短編小説でした。
 

ゲーテ詩集(72)

 今日は「ゲーテ詩集」その72を配信します。縦書き表示で読めますよ。 
 古代ギリシアへの愛敬と、自然賛歌を厳かに書き記す、ゲーテの詩の一篇でした。
quomark03 - ゲーテ詩集(72)
たとへ堅い骨もて
ゆるぐことのない
不変の大地に
立つてゐようとも
樫の樹ほども
葡萄の蔓ほども
高く延びえぬ
身の…………
…………
……quomark end - ゲーテ詩集(72)
全文は以下のリンクから読めます。
 

0000 - ゲーテ詩集(72)

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約5頁 ロード時間/約3秒)
  
全文を読むにはこちらをクリック
 
ゲーテ詩集はあと10回ほどありますが、月に1回ほどのペースで読みつづけようかと思います。

なぐり合い トオマス・マン

 今日は、トオマス・マンの「なぐり合い」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは「戦争後まもない頃で、力だの勇気だの、なんでも荒くれた美徳が、おれたち少年の間では非常にもてはやされ」ていた時代の、西洋の少年たちの悪漢小説です。「ヤッペとド・エスコバアルとがなぐり合いをする」ことになり、これを見物しに行く「おれ」が、この少年たちの対決をまのあたりにします。

0000 - なぐり合い トオマス・マン

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
 ネタバレ注意なので、近日中に読み終える予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。「クナアク先生」というのが中盤で登場して20数回も記載されるのですが、この唯一の大人が決闘の見届け人となっていて、少年の犯罪を防ぐ目的もあるようで、あるていど拳闘のルールが決まるのでした。ただ競技とはまったくちがっていて、暴力や犯罪に密接しているところがあるのでした。この「おれ」と「先生」というのが、作家の立ち位置や考えに近いのでは、と思いながら読みました。
 闘いが終わったあとの、荒んだ集団の異様な熱気をまのあたりにし、ジョニイと「おれ」がそこから去ってゆく、この前後の場面が、印象的な物語でした。