季節のない街 山本周五郎

 今日は、山本周五郎の「季節のない街」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 僕はこれを昨日はじめて全文、読んでみたんですけど、日本の映画で印象深かったものが、山本周五郎の小説の中にあまたに記されていて、映画と小説には、こんなに共通項があるのかと驚きました。
 山本周五郎は時代小説を主に描いたと思うんですが、今回のは戦後すぐを描いたものです。かなり現代人と共通項が多いように思います。
 この山本周五郎の小説はちょうど、近代と現代との……中間が描きだされた世界のように思えました。
 山本周五郎の本を読んだ人たちが、日本の映画の脚本を書いたはずだ、と思うところがいっぱいありました。「どですかでん」とか。
 じっさいはどういう事情で描かれたのか分からないのですが、この「季節のない街」は、戦争孤児のことを考えて物語を創っているように思う短編がいくつもありました。
 この小説は漱石や谷崎とちがって、読みにくい箇所が混じってるんです。とくに酒飲みの話しと、虚言癖から生じる政治論のところがかなりの難読箇所でした。ぼくは「肇くんと光子」という短編がいちばん楽しかったです。それから終盤「たんば老人」の「泥棒」に遭遇するエピソードが印象に残りました。
 いちばんはじめの六ちゃんが運転する幻の電車に導かれて、物語の世界に引き込まれてゆきます。戦争が終わったあとの世界が、いったいどういうものだったのかが垣間見えるように思いました。
 

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(総ページ数/約200頁 ロード時間/約3秒)
 

時間からの影 ラヴクラフト

 今日は、ラヴクラフトの「時間からの影」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……奇妙な記憶喪失に見舞われた学者が、悪夢に見た太古の巨大遺跡群を調査する物語なんです。子どもっぽい妄想も記されているんですけど……H.P.ラヴクラフトはあまたの怪異と、まがまがしい巨大建築群を描きだしたホラー小説家なんです。ラヴクラフトが原典としたものは何か、というと、おそらくGustave Doreの絵画を幾度も引用しているのでドレの絵画から着想を得ていると思うんです。(他にもまあ、ゴヤの絵画も参照しているんですけれども)
 ドレといえばダンテの『神曲』の装画を何十枚と描いた画家ですし、となると『神曲』地獄篇こそが、ラヴクラフトの悪夢の原典、その一つかもしれないです。
 ラヴクラフトの今作は、まがまがしい存在を全て漆黒の中に隠し、暗黒だけを恐怖の中心に据えたのが、独自の特徴なんだと思いました。古典的なホラー小説を、全文読んでみました。
 

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(総ページ数/約100頁 ロード時間/約3秒)
((CC BY 3.0)*著作権存続* ※この翻訳は、「クリエイティブ・コモンズ 表示 3.0 非移植 ライセンス」によって公開されています。
Creative Commons License ※元のファイルは、http://www.asahi-net.or.jp/~YZ8H-TD/misc/TheShadowOutofTimeJ.html にあります。翻訳:The Creative CAT)

スペードの女王 プーシキン

 今日は、プーシキンの「スペードの女王」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは怪談の名手の岡本綺堂が翻訳したプーシキンの怪異譚なんですけれども、ギャンブルにからんで、ストーカー的あるいは詐欺師的な恋愛の気配が描かれていって、興味を惹かれます。
 かつて若い頃に賭け事に狂ったことがあるおばあさんというのがいて、その人が賭けカルタの秘密というのを知っている、らしいんです。本文こうです。
quomark03 - スペードの女王 プーシキン
  生涯に二度と骨牌をしないという誓言をさせた上で、三枚の切り札の秘密を彼に授けて、順じゅんに賭けるように教えたquomark end - スペードの女王 プーシキン
 
 これ……数学者とか暗記力の高い人って、賭けカードゲームにほぼ必勝する方法をほんとに知ってるんですよね。youtubeで、じっさいに必勝法を知っているプロのギャンブラーがいて、この必勝法の解説をしていたりして、聞いていると面白いんですけど、ようするにカードを全体的に暗記して残りのカードがなにかを確率的に見抜けるらしいです。
 この物語では、もっとこう圧倒的に勝ってしまう技がどうもあるらしい。それでギャンブルに強く惹きつけられてしまう。このプーシキンの小説は、ギャンブルに絡んで、必勝カルタの秘密を暴きたい詐欺師的な男ヘルマンと、淳朴な美少女リザヴェッタとの恋愛ゲームが記されているのも読んでいて楽しかったです。
 ここからはネタバレなので未読の方は読み飛ばしてもらいたいんですが……おもしろいのは、詐欺師まる出しの男であっても、リザヴェッタは彼を人間として扱うところなんですよ。彼の本心がギャンブルで大金を稼ぐ拝金主義にあって非人間的であるとわかったあとにも、彼を助けようとしたりする。読者としても、ヘルマンがどうなるのか、かなり気になるんです。
 文学は、余り尽くしたものを中心に描くのだ、とか思いました。
 読み終えたあとから考えると、リザヴェッタのような、地味な考え方や生き方には、あきらかにこう、強さがある……と思いました。

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約3秒)
 

坊っちゃん 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「坊っちゃん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは分かりやすい小説なんですけど、きよというおばあさんが、母親のように主人公の面倒をみてくれるのが印象深いんです。漱石は子どもの頃に、血の繋がっていない父母に育てられたんですけど、その影響があるのか、他人を肉親のように扱ったり、肉親を他人のように捉えたりする、そういう個性的な人物像が繰り返し描かれるのかもしれないと思いました。当時はそれほど奇妙な家庭環境では無かったようですけど。
 作中に、登場人物たちをこのように解説しているページがありました。ここさえ読めば、どういう人たちがなにをしているのかは分かると思います。本文こうです。
quomark03 - 坊っちゃん 夏目漱石
  山嵐のようにおれが居なくっちゃ日本が困るだろうと云うような面を肩の上へ載せてる奴もいる。そうかと思うと、赤シャツのようにコスメチックと色男の問屋をもって自ら任じているのもある。教育が生きてフロックコートを着ればおれになるんだと云わぬばかりの狸もいる。皆々それ相応に威張ってるんだが、このうらなり先生のように在れどもなきがごとく、人質に取られた人形のように大人しくしているのは見た事がない。顔はふくれているが、こんな結構な男を捨てて赤シャツに靡くなんて、マドンナもよっぼど気の知れないおきゃんだ。赤シャツが何ダース寄ったって、これほど立派な旦那様が出来るもんか。quomark end - 坊っちゃん 夏目漱石
 
 山嵐以上に無鉄砲なのが、主人公なんです。あと、お金のやりとりがなぜだかおもしろかったんです。竹を割ったような性格の主人公が、こういうお金は要らないとか、きよおばあさんからもらったお金のこととか、なんともこう、お金の扱いがかっこ良いんです。漱石は新聞社から給料をもらっていたのに、新聞社がやる間違った考え方について批判的に描写するところとか、そういうところも凄かったです。
 

0000 - 坊っちゃん 夏目漱石

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(総ページ数/約100頁 ロード時間/約3秒)
 

0円オーディオブック

audiobooks01 1 - 0円オーディオブック

 「明かりの本」はじつは、Google Chromeの拡張機能を使ってオーディオブックとしても使えるんです。こちらから、詳細を読んでみてください。小説や随筆を縦書きで読みすすめながら、同時に耳で聞いてゆくことが出来るんです。0円のオーディオブックとして使えます。読み上げ速度や音程を調節して、お好みの音声で、小説や随筆をお楽しみください。
 奇妙な声で読み上げてくれるので、詩集や、美しい文体の短編には、あまりオススメ出来ません。
 
 オーディオブックとして聞くのにおすすめの作品ベスト3は、コレです。
 【No3】日本文化私観 坂口安吾
 坂口安吾の随筆は、深い内容を、やさしい言葉で書いているので、とても聞きやすかったです。

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 【No2】痴人の愛 谷崎潤一郎
 平易で聞きやすい日本語なので、聞きながら読んでゆくのに最適です。

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 【No1】三四郎 夏目漱石
 人工知能の、間の抜けた声で聞くのに、もっとも相応しい近代文学だと思います。オーディオブックは、長時間かけてのんびり聞いてゆくのがオススメです。Netflixでプリズンブレイクを見てゆくような感じで、明かりの本のオーディオブックをお楽しみください。

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0円のオーディオブックを使う方法は、こちらをご覧ください。PCやiPhoneやタブレットで、オーディオブックを使えます。完全に0円です。