今日は、坂口安吾の「青鬼の褌を洗う女」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
坂口安吾というと、随筆が有名なのですが、今回は戦後すぐの女性が主人公の、小説です。彼女は戦争時代のゴタゴタを回想してゆきます。
三木昇という映画俳優と友達になった。
という脇役が登場するさいしょの描写が面白かったです。戦争被害の描写はあきらかに事実に即したことを描いているようで、恐ろしい描写でした。彼女は戦争ですべてを失った。そのあとの文章がこうです。
「私にとっては私の無一物も私の新生のふりだしの姿であるにすぎず、そして人々の無一物は私のふりだしにつきあってくれる味方の」……という記述が印象に残りました。災後の描写として浮気のことを何度も描きだす、というのが坂口安吾の自然な物語表現だったのだろうと思うんですけど、これは現代の週刊誌でもたしかにそうなのではないかと思いました。
美醜についてとか、主人公がどうしていつもニッコリ笑うのかとか、平生の無口な人間の言葉の仕組みとかが、作中に事細かに描かれていて興味深かったです。
トカトントン 太宰治
今日は、太宰治の「トカトントン」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
戦後に太宰は小説で、このように記しています。
何か物事に感激し、奮い立とうとすると、どこからとも無く、幽かに、トカトントンとあの金槌の音が聞えて来て、とたんに私はきょろりとなり、眼前の風景がまるでもう一変してしまって、映写がふっと中絶してあとにはただ純白のスクリンだけが残り、それをまじまじと眺めているような…………
戦争の危機が去ったあとに無気力にさいなまれていた主人公に対する、親戚の発言に、こういうのがあるんです。「お前は頭が悪いくせに、むずかしい本を読むからそうなる。俺やお前のように、頭の悪い男は、むずかしい事を考えないようにするのがいいのだ」
中盤で絵画や音楽の話しが挿入されるんですけれども、それがじつにみごとで……。それから泉鏡花の「歌行燈」のことも記していました。こんど読んでみようと思います。
それから政治に関する複雑な描写があるのですが、太宰治の経歴をwikipediaで読んでいると、15年戦争のはじまるころに、左翼運動をしてこれに挫折している。野間宏が描いた大長編の『青年の環』に登場する、特高に狙われた左翼青年のような人生があったようだ、というのを知りました。
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