いのちの初夜 北条民雄

 今日は、北条民雄の「いのちの初夜」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 子どものころに感動した本を、大人になってから再読するのは緊張するんですが、本作は読みやすい文体で構成された、児童文学としても愛読されうる作品に思いました。
 病者仲間の手にしている義眼の描写がみごとで魅入られました。北条民雄にとっての文学は、この義眼や松葉杖のような存在だったのでは、と思いました。序盤で自死と生と木々のことについて書くのですが、これは聖書の死生観の影響も色濃いのでは、と思ったのですが、作者の北条民雄はヨブ記を愛読していて、この物語との共通項があるように思いました。中盤から後半にかけて苦悶の描写が展開されて凄絶な心情が記されてゆき、そこから闘病記に閉塞せずに、いのちの詩と生命論に進んでゆくのがもの凄い作品に思いました。病の体験と、聖書のヨブの文学性が混交したような独特な文学でした。これは発表当時から文学界でも広く読まれた作品なんです。若いころに病で苦しんだ現実の記憶と、この本に描かれた文学上の記憶が、心中で入り混じってゆくという読書体験をした、1936年ごろの読者は多かったのでは、と思いました。 「いのちの初夜」という言葉は、師の川端康成に添削してもらってつけた題名なんだそうです。
  

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学問のすすめ(12)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その12を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回はスピーチの価値について論じています。まったく同じ内容であっても複製した断片だけでは伝わりにくいのに、優れた人が詩をスピーチすれば「わかりやすく」「人を感ぜしむるもの」となって「限りなき風致を生じて衆心を感動」させる。「ゆえに一人の」意見を「衆人に」速やかに伝えられるかどうかは「これを伝うる方法に」よるところが大きい。
 福沢諭吉は、学問を活用して機能させることを重視していて「活用なき学問は無学に等し」いというように書いています。
 読書をして、心の働きに変化が生まれて、これを活用して学を実践にうつす。観察をして推論をして、新しい考えを作り、人と話して知見を交換し、本を出して演説をして知を広める。学問の実践には、人との交流が重要になってゆく。
 学問をほんとうにする人は、談話や演説をすることが、大切になる。独自に一人で学究をするということと、人と交流して知を広めるという「外の務め」というのをしっかりやってはじめて、ほんとうの学者である、と福沢諭吉は説きます。
 知識量が多く人とも多く交流しても、定見を持っていない学者というのがいるのもまずい、とも書きます。
 学問をする者は、高尚な見識というものを持つべきだけれども、「医者の不養生」とか「論語読みの論語知らず」となってはいけない。実行力とか結果とかが、ともなわない学者が多いとマズい、というように福沢諭吉は書くのでした。酒でも遊びでも淫蕩なところに至るとかいうのは駄目だ、風紀や風俗のことで喧々諤々の言い争いをするというのは愚かだ、という指摘もあってこれは荘子が述べているように、優れた学者の「交りは淡きこと水のごとし」というのが理想、ということなのかと思いました。
 学校や学の評価というのは、風紀や風俗をやたらと取り締まっていて全体的に見た目が整っている、というところでは判断できない。学校の価値は「学科の高尚なると、その教法の巧みなると、その人物の品行高くして、議論の賤しからざるとによる」と福沢諭吉は書きます。これは、大組織や政府にも言えることだ、と書いていました。
 今回は、19世紀後半のインド政府がおちいった困難について論じていました。この国家的危機を学問の力で改善していったのが、ガンディーの思想と実践だったというように思いました。
 

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 

高きへ憧れる心 与謝野晶子

 今日は、与謝野晶子の「高きへ憧れる心」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 与謝野晶子が、アニミズムや山への畏敬について記しています。じっさいの登山での実感もふまえ、古典文学と山との関連も記していて、読んでいて魅了される随筆でした。
 与謝野晶子は、大陸横断鉄道に乗ってヨーロッパへ旅をしたり、子どもを十三人も産んでいて、さらに中国の千山にも登っているのだそうです。
 高野山や吉野山に住んだ西行の、山での心情について書いているのが印象に残りました。本文こうです。 
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 或る日数以上、山に滞在すると寂しくてならない。山上の視野がひろいのに対して、人間の余りに孤小なことさえ感ぜられて寂しくなる。山には早く秋が来るので、八月の末頃まで山にいると、夜など泣きたいような心もちを覚える。高野山や吉野山に住んだ西行がしばしば京に帰って来たのも、こう云う人間思慕の心からではなかったか。 
 山から帰る心は浄められている。quomark end - 高きへ憧れる心 与謝野晶子
 

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筧の話 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「筧の話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 梶井基次郎は「檸檬」がおすすめなんです。今回も代表作と似た構成で、「私」が散歩をしていて、その風景画を記しているんです。
 筧というのは、地べたより高いところにかけられた古い水道のことです。とにかく描写が静謐で、美しい風景が描かれます。本文こうです。
quomark03 - 筧の話 梶井基次郎
  香もなく花も貧しいのぎらんがそのところどころに生えているばかりで、杉の根方はどこも暗く湿っぽかった。そして筧といえばやはりあたりと一帯の古び朽ちたものをその間に横たえている……quomark end - 筧の話 梶井基次郎
 
 この描写で終わらずに、自己の感覚を描きだします。「澄みとおった水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、いぶかしい魅惑が私の心を充たして来る」
 見えない水音が「私」を果てしなく魅了してゆく、そのあと筧から水が涸れ果てて、麻薬の切れた患者のように「暗鬱な」「絶望」にひたってゆく「私」が描きだされます。グレン・グールドの「フーガの技法」の演奏を彷彿とさせるような、蠱惑的な小説でした。
  

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悟浄出世 中島敦

 今日は、中島敦の「悟浄出世」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
『山月記』で有名な中島敦が、妖怪の沙悟浄を描いた小説です。なぜ人食いの妖仙である沙悟浄が三蔵法師の弟子になったのか、その前日譚のところが描かれています。
 悟浄は「九人の僧侶そうりょった罰で、それら九人の骸顱しゃれこうべが自分のくび周囲まわりについて離れな」くなり、悩みが高じて、哲学的な疑問を抱くようになった。妖怪でしかない沙悟浄が、この悩みを解決するために、黒卵道人こくらんどうじんや、沙虹隠士といった導師のもとを訪ね、死と苦と哲学についての教えを得るのでした。
 西洋でいうところのディオゲネスの思想にも似た不思議な議論と、師を求む旅が展開するのでした。妖怪から修行者へと転じてゆくさまが長々と記され、ついに三蔵法師に出会うのでした。本文こうです。「悟浄ごじょうは、はたして、大唐だいとう玄奘法師げんじょうほうし値遇ちぐうし奉り、その力で、水から出て人間となりかわることができた。そうして、勇敢にして天真爛漫てんしんらんまん聖天大聖せいてんたいせい孫悟空そんごくうや、怠惰たいだな楽天家、天蓬元帥てんぽうげんすい猪悟能ちょごのうとともに、新しい遍歴へんれきの途に上ることとなった。」
 冒険譚と哲学書が混交したような、なんだかすてきな本でした。
  

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ゲーテ詩集(62)

 今日は「ゲーテ詩集」その62を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回のゲーテの詩は『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』に登場したミニヨンという女性が主人公の詩で、これは有名な詩なんだと思います。
 作中で、霧に隠された洞窟と、老いた竜というのが記されていて『ファウスト』中盤でも繰り返し描かれた、神話的な表現がありました。
quomark03 - ゲーテ詩集(62)
 ねえ、いとしいお方、わたしはあなたと参りませう
あの雲に聳えた山路を御存知ですか?
驢馬は霧の中に路を求めて行き
洞窟ほらあなの中には年とつた竜が棲まつてゐて
くづれ落ちた岩の上に波のうち寄せる
あの路を御存知ですか?
………quomark end - ゲーテ詩集(62)
 

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