ハイネ詩集 生田春月訳

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ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
牧童

羊飼ひの子は王様だ
緑の丘はその玉座
頭にかゝるお日さんは
大きな金のかんむり

その足もとには赤いぶちの入つた小羊が
やさしい阿諛者ごきげんとりが寝そべつてゐる
こうしのむれは騎士カヴアイリル
大股に威張つて歩き廻る

仔山羊はみんなお抱へ役者
そして小鳥と牝牛とは
お抱へ楽師の一組で
笛を吹いたり鈴を鳴らしたりする

気もちよく響くその音楽に
瀑布たきの轟き、樅の樹の
気もちのよいそよぎが調子を合せるのを
聞きながら王はすやすや眠り入る

その間にも大臣の
犬は警備を怠らず
そのいさましい鳴声は
国の四方に反響こだまする

若い王様は眠さうに呟いて言ふ
『国を治めるのは実にむづかしい
あゝ、早くうちへ帰りたい
女王のところに帰りたい!」

女王の腕にやはらかく
この王の頭をやすめたい!
女王のきれいな眼の中に
僕の無限の国はある!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
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