ハイネ詩集 生田春月訳

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ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
フリイデリイケ
 

  (一八二四年)

ねえ伯林ベルリンを棄てゝ行きませう、この深い砂と
薄い茶と、この気の利かない人逹の市街まち
彼等は神も世界もまた自分自身をさへ
ヘエゲルの合理主義で理解してゐる連中ですからねえ

ねえ一緒に印度にまゐりませう、あの太陽の国へ
アンプラの花がかぐはしく匂ひをはなち
白い着物を着た信心深い巡礼のむれが
ガンゲスのほとりをさして急いで行く国へ

そこには棕櫚の樹がそよぎ波がきらめいて
神聖な河のほとりには蓮の花が
永遠に青いインドラの城にむかつて咲いてゐる

そこでわたしはおまへの前に恭々しく跪いて
おまへの足に接吻きすしておまへに言はう
奥さんマダム!あなたは女の中の一番美しいお方です!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
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