ハイネ詩集 生田春月訳

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ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
秘密

我々は嘆息しない、眼は乾いてゐる
我々は微笑する、また笑ひさへもする!
どんな眼付にもどんな顔付にも
会つて秘密を洩らしたことはない

黙つて苦痛を忍びながらもその秘密は
我々の血みどろになつた心の底にやすんでゐる
たとへ心の中に荒れ出さうとも
痙攣しながらも口はやつぱり閉ぢられてゐる

揺籃に寝てゐる赤児に問うて見ろ
墓場に寝てゐる死人に問うて見ろ
多分彼等はおまへに告げるだらう
いつもわたしがおまへに打明けないでゐたことを

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
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