ハイネ詩集 生田春月訳

.

ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
アスラ

毎日々々、美しい花のやうな
サルタンの姫は夕方に
白い水をぱちやぱちや飛ばしてゐる
噴水のほとりをゆきつ戻りつなさいます!

毎日々々、若い奴隷は夕方に
白い水をぱちやぱちや飛ばしてゐる
噴水のほとりに立つてゐました
奴隷は一日ごとにだんだん蒼くなつて行きました

ある夕方、姫は奴隷の傍に寄り
早口にお訊きになるのには
『わたしはおまへの名が知りたい
おまへの故郷とおまへの種族とが!』

すると奴隷が言ふのには
『わたしはモハメッドといつてヱエメンの者で
わたしの種族は恋すると
死なねばならないアスラです』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
物語倶楽部作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、物語倶楽部で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。