ハイネ詩集 生田春月訳

.

ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
最後の詩集から
 

  その十

こんなにはげしく燃え上つてゐる恋の火は
我々の心の滅ぼされたとき何処へ行くのであらう?
それはもと出て来たところへ帰つて行くのであらう
あはれな亡者どもの焼き苦しめられてゐる地獄へと
 

  その十一

永遠よ、どんなにおまへは長いだらう
千年よりもまだ長い
千年もわたしはあぶられて
あゝ!まだすつかり炙られきらぬ

永遠よ、どんなにおまへは長いだらう
千年よりもまだ長い
でもしまひには悪魔がやつて来て
わたしを頭から食つてしまふ
 

  その十二

死がやつて来る—— 今わたしは言はう
わたしの誇りが永遠に黙つてゐるやうに
命じたことだが—— おまへの為めに、おまへの為めに
おまへの為めにわたしの胸は打つたのだ!と

柩は出来た、わたしは今墓場に埋められて
永遠の安息に入るのだ
だがおまへは、おまへは、あゝマリイ
おまへはいつもわたしを思ひ出しては泣くであらう
おまへはまた美しい手をふりしぼりさへもするだらう——
おゝどうかおまへも諦めてくれ—— これが運命だ
人間の運命だ—— どんなに大きい美しい
どんなに善いものでも悪い最後を遂げるのは

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
物語倶楽部作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、物語倶楽部で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。