ハイネ詩集 生田春月訳

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ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
エピロオグ

我々の墓を名声があたゝめる!
馬鹿な話だ!くだらぬことだ!
我々にすつかり惚れ込んで
厚い唇で我々に接吻きすする
肥のにほひのぷんとする牛飼女の方が
もつとよく我々をあたゝめるだらう
また火酒やプンシュやグロオグを
腹一杯に飲んだなら
我々はそのはらわたの底までも
もつとあたゝめられるだらう
たとひきたない居酒屋で
泥棒や詐欺師と一緒に飲まうとも——
彼等は絞首台を逃れて来たものだが
それでも彼等は生きて息して威張つてゐるのだから
一層羨ましいものではないか
テエティスの偉大な息子よりも——
ペリイデスの言葉はもつともだ
『たとひ一番あはれな奴隷の生活でも
地上に生きてゐた方がいゝ』
スティックの河のほとりにあつて
ホメロスにさへも歌はれた英雄であるよりも
亡者の王であるよりも!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
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