ハイネ詩集 生田春月訳

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ハイネ詩集
生田春月 訳
 
 
 
抒情挿曲 

   (一八二二年 – 一八二三年)

わたしの嘆きと苦みを
わたしはこの書の中に投げ込んだ
もしおまへがこれを開いて見るならば
わたしの心はおまへに開くだらう  

  一

たのしい春がやつて来て
いろんな花がひらくとき
そのときわたしの胸からも
愛のおもひが萠え出した

たのしい春がやつて来て
いろんな小鳥がうたふとき
こひしい人の手をとつて
わたしは燃ゆるおもひをうちあけた
 

  二

わたしのあるい涙から
いろんな花が咲いて出る
そしてわたしのため息は
あの夜鶯うぐひすの歌となる

おまへがわたしを愛するなら
この花をみなおくりませう
そしておまへの窓のそとに
夜鶯うぐひすの歌はひゞくでせう
 

  三

薔薇よ、百合よ、鳩よ、太陽
それらをむかしわたしは愛したが
もはやわたしは愛しない、今ではひとり
小さな、やさしい、清い、ひとりのあの人が
愛といふ愛の泉となりました
薔薇と、百合と、鳩と、太陽
 

  四

わたしはおまへの目を見ると
この悩みも痛みも消えちまふ
さて、おまへの口に接吻きすすると
わたしはすつかり丈夫になる

わたしがおまへの胸にもたれると
天国へでも行つたやうに思ふ
でも『わたしはあなたを愛します!』と
おまへが言へば、わたしはつらくて泣かずにゐられない

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
底本:「ハイネ詩集」(新潮文庫、第三十五編)
新潮社出版、昭和八年五月十八日印刷、昭和八年五月廿八日發行、
昭和十年三月二十日廿四版。
生田春月(1892-1930年) 
「ハイネ詩集」(Heinrich Heine, 1797-1856年)
入力:osawa
編集:明かりの本
2017年7月7日作成
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