柳田国男 こども風土記

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 子買お問答
 
 
 私などが子取ろといっていた遊びは讃岐さぬきではオトリコトリ、南伊予でウシノコトリというのも同じで、鬼事の一種であった。強い大きなを前に、順々に帯に手をかけてつながり、鬼がその後の児をろうとするのを、動きまわって先登せんとうが防ぐので、これは動作があまり激しいので、短い単調な言葉しかくり返されていなかった。ところが別に今一つ、
 

子買お子買お
子を買うてなんにする
赤のまんまに魚そえて食わそ

 
というような問答を、際限もなくり取りする遊びがあって、それを大阪では子取りといったときくが、本当であろうか。
 子買おの文句は国々で実によく発達している。奥州おうしゅうの端では子売ろというそうだから、もとは「どの児がほしい」というのが一般であったと思われるのだが、近頃は遊びの名前までが変ってきている。たとえば熊本の附近ではねこもらい、越後えちご岩船いわふね郡でも猫じゃ猫じゃというのがこの遊びで、
 

猫じゃ猫じゃ
どの猫ほしや
後の何々猫ほしいわ

 
というたぐいの問答をする。仙台の市中の子どもはこれをすずめとりといった。
 

どの雀よかろ
いつも来るよな誰それ雀よかろ
どの茶碗ちゃわんでかせる(くわせる)
金の茶碗でかせる

 
というふうに、着物や家などを次々にたずね、それが一通り終ると、名ざされた子どもが、自分でブーンといって飛んで来る。すなわち子どもは問答の面白さに気を取られて鬼事はもう忘れているのである。しかし埼玉県で雛買ひなかいというのはこれに反して、ばあさんが川越かわごえいちへ雛人形を買いに行き、一つ一つを見立てて、くすぐって笑わぬのを買おうといったり、うすかせたり、よくないといって返しにきたり、芝居同様の色々のしぐさがあるのだが、それでいて留守るすにその雛が逃げ出し、それから鬼ごとになるのだといっている。察するに最初は、「向いのおばさんお茶のみにおで、鬼がこわくて行かれません」のように、または遠州の鰮屋いわしや問答で、鰮の値段をきいて「負からんとうしろの子を取るぞ」というように、鬼の遊びを面白くする前幕であったのが、末には児童がその文芸を愛するあまりに、これを独立した静かな遊戯の一つに、作り上げたのかと思われる。
        
 
         
〔つづく〕
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