与謝野晶子詩歌集

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許したまへあらずばこその今のわが身うすむらさきの酒うつくしき 
 
わすれがたきとのみに趣味しゆみをみとめませ説かじ紫その秋の花 
 
 
 
 
 
 
 
 
  甥 
 
をひなる者の歎くやう、 
二十はたち越ゆれど、詩を書かず、 
をどりを知らず、琴弾かず、 
これ若き日とふべきや、 
富むいへの子とふべきや。」 
これを聞きたる若き叔母、 
目のひたれば、手探りに、 
をひの手をひにけり、 
「いとし、今はいへを出よ、 
さびしき我に似るなかれ。」 
 
 
 
 
 
 
 
  花を見上げて 
 
花を見上げて「悲し」とは 
君なにごとをひたまふ。 
うれしき問ひよ、さればなり、 
春の盛りの短くて、 
早たそがれの青病クロシスが、 
さとき感じにわななける 
女の白き身の上に 
毒のむごと近づけば。