与謝野晶子詩歌集

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人かへさず暮れむの春の宵ごこち小琴をごとにもたす乱れ乱れ髪 
 
たまくらにびんのひとすぢきれし小琴をごとと聞きし春の夜の夢 
 
 
 
 
 
 
 
 
  我家の四男 
 
おもちやのくまを抱く時は 
くまの兄とも思ふらし、 
母に先だちく時は 
母よりみちを知りげなり。 
五歳いつゝに満たぬアウギユスト、 
みづからたのむそのさがを 
母はよしやとみながら、 
はた涙ぐむ、人知れず。 
 
 
 
 
 
 
 
  正月 
 
紅梅こうばいの花をけたつぼ。 
正月のテエブルに 
格別かはつた飾りも無い。 
せめて、こんな暇にと、 
絵具箱をけて、 
わたしは下手へたな写生をする。 
紅梅こうばいの花をけたつぼ。