春雨にぬれて君こし草の門(かど)よおもはれ顔の海棠の夕 小草(をぐさ)いひぬ『酔へる涙の色にさかむそれまで斯くて覚めざれな少女(をとめ)』 唯一(ゆひいつ)の問(とひ) 唯(た)だ一つ、あなたに お尋ねします。 あなたは、今、 民衆の中(なか)に在るのか、 民衆の外(そと)に在るのか、 そのお答(こたへ)次第で、 あなたと私とは 永劫(えいごふ)、天と地とに 別れてしまひます。 秋の朝 白きレエスを透(とほ)す秋の光 木立(こだち)と芝生との反射、 外(そと)も内(うち)も 浅葱(あさぎ)の色に明るし。 立ちて窓を開けば 木犀(もくせい)の香(か)冷(ひや)やかに流れ入(い)る。 椅子(いす)の上に少しさし俯(うつ)向き、 己(おの)が手の静脈の ほのかに青きを見詰めながら、 静かなり、今朝(けさ)の心。