牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君 春よ老いな藤によりたる夜(よ)の舞殿(まひどの)ゐならぶ子らよ束(つか)の間(ま)老いな 秋の心 歌はんとして躊躇(ためら)へり、 かかる事、昨日(きのふ)無かりき。 善(よ)し悪(あ)しを云(い)ふも慵(ものう)し、 これもまた此(この)日の心。 我(わ)れは今ひともとの草、 つつましく濡(ぬ)れて項垂(うなだ)る。 悲しみを喜びにして 爽(さわや)かに大いなる秋。 今宵の心 何(なん)として青く、 青く沈み入(い)る今宵(こよひ)の心ぞ。 指に挟(はさ)む筆は鉄の重味、 書きさして見詰むる紙に 水の光流る。