与謝野晶子詩歌集

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さて責むな高きにのぼり君みずやあけの涙の永劫えいごふのあと 
 
春雨にゆふべのみやをまよひ出でし小羊こひつじきみをのろはしの我れ 
 
 
 
 
 
 
 
  悲しければ 
 
がたく悲しければ 
我はひぬ「船に乗らん。」 
乗りつれどなほさびしさに 
またひぬ「月の出を待たん。」 
海は閉ぢたる書物のごとく 
呼び掛くること無く、 
しばらくして、まるき月 
波にをどりつればひぬ、 
「長き竿さをし、 
かの珊瑚さんごうをを釣る。」 
 
 
 
 
 
 
 
  緋目高ひめだか 
 
鉢のなかの 
活溌くわつぱつ緋目高ひめだかよ、 
赤く焼けたくぎで 
なぜ、そんなに無駄に 
水にあなけるのか。 
気の毒な先覚者よ、 
革命は水の上に無い。