与謝野晶子詩歌集

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かみ五尺ときなば水にやはらかき少女をとめごころは秘めて放たじ 
 
血ぞもゆるかさむひと夜の夢のやど春を行く人神おとしめな 
 
椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬいろもゝに見る 
 
その子二十はたち櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな 
 
 
 
 
 
 
 
  賀川豐彦さん 
 
わが心、ほどえて 
高ぶり、しのぐ時、 
何時いつ何時いつも君をおもふ。 
 
わが心、消えなんばかり 
はかなげに滅入めいれば、また 
何時いつ何時いつも君をおもふ。 
 
つつましく、へりくだり、 
しかも命と身を投げだして 
人と真理の愛に強き君、 
ああ我が賀川豐彦とよひこの君。 
 
 
 
 
 
 
 
  人に答へて 
 
時としてひとりを守る。 
時として皆としたしむ。 
おほかたはけはしきかたに 
きて命傷つく。 
こしかたもれ、 
すゑれ。 
許せ、我がかる気儘きまゝを。 
 
 
 
 
 
 
  晩秋の草 
 
野の秋更けて、露霜つゆしもに 
打たるものの哀れさよ。 
いよいよ赤むたでの茎、 
黒き実まじるコスモスの花、 
さてはまた雑草のうられて 
まだらを作る黄と緑。 
 
 
 
 
 
 
 
  書斎 
 
一事ひとことの知りたさに 
れを読み、れを読み、 
われ知らずを更かし、 
取り散らす数数かずかずの書の 
座をめぐる古き巻巻まきまき。 
客人まらうどよ、これを見たまへ、 
秋の野のとこの 
はぎの花とも。