与謝野晶子詩歌集

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今ここにかへりみすればわがなさけやみをおそれぬめしひに似たり 
 
うつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今 
 
 
 
 
 
 
 
  秋の柳 
 
夜更よふけたつじの薄墨の 
せた柳よ、糸やなぎ。 
七日なぬかの月が細細ほそほそと 
高い屋根からのぞけども、 
なんぼ柳はさびしかろ。 
物思ふ身も独りぼち。 
 
 
 
 
 
 
 
  冬のたそがれ 
 
落葉おちばした木はY《ワイ》の字を 
墨くろぐろと空に書き、 
思ひ切つたる明星みやうじやうは 
黄金きんの句点を一つ打つ。 
薄く削つた白金プラチナの 
神経質の粉雪よ、 
おこりふるふ電線に 
ちくちくさはる粉雪よ。