与謝野晶子詩歌集

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しのび足に君を追ひゆく薄月夜うすづきよ右のたもとの文がらおもき 
 
紫に小草をぐさが上へ影おちぬ野の春かぜに髪けづる朝 
 
 
    × 
砂を掘つたら血が噴いて、 
入れた泥鰌どぢやうりようになる。 
ここでしばらく絶句して、 
序文につてが明けて、 
覚めた夢から針が降る。 
    × 
時に先だち歌ふ人、 
しひたげられて光る人、 
豚に黄金こがねをくれる人、 
にがいわらひを隠す人、 
いつも一人ひとりで帰る人。 
    × 
赤い桜をそそのかし、 
風のくせなるしのび足、 
ひとりで聞けば恋慕れんぼらし。 
雨はもとより春の糸、 
窓の柳も春の糸。