しのび足に君を追ひゆく薄月夜(うすづきよ)右のたもとの文がらおもき 紫に小草(をぐさ)が上へ影おちぬ野の春かぜに髪けづる朝 × 砂を掘つたら血が噴いて、 入れた泥鰌(どぢやう)が竜(りよう)になる。 ここで暫(しばら)く絶句して、 序文に凝(こ)つて夜(よ)が明けて、 覚めた夢から針が降る。 × 時に先だち歌ふ人、 しひたげられて光る人、 豚に黄金(こがね)をくれる人、 にがい笑(わらひ)を隠す人、 いつも一人(ひとり)で帰る人。 × 赤い桜をそそのかし、 風の癖(くせ)なるしのび足、 ひとりで聞けば恋慕(れんぼ)らし。 雨はもとより春の糸、 窓の柳も春の糸。