与謝野晶子詩歌集

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絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるき 
 
しら壁へ歌ひとつ染めむねがひにて笠はあらざりき二百里の旅 
 
 
    × 
見る夢ならば大きかれ、 
うつくしけれど遠き夢、 
けはしけれども近き夢。 
われは前をば選びつれ、 
わかき仲間はのちの夢。 
    × 
すべてが消える、武蔵野の 
砂を吹きまく風の中、 
人も荷馬車も風の中。 
すべてが消える、きんの輪の 
太陽までが風の中。 
    × 
花を抱きつつをののきぬ、 
花はこころにかぶさりぬ。 
論じたまふな、き、しき、 
なにこの世にわかつべき。 
花と我とはかがやきぬ。