与謝野晶子詩歌集

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嵯峨の君を歌に仮せなの朝のすさびすねし鏡のわが夏姿 
 
ふさひ知らぬ新婦にひびとかざすしら萩に今宵の神のそと片笑かたゑみし 
 
    × 
凡骨ぼんこつさんの大事がる 
薄い細身の鉄ののみ。 
髪に触れてもの欠ける 
もろいのみゆゑ大事がる。 
わたしも同じもろいのみ。 
    × 
林檎りんごが腐る、を放つ、 
冷たいゆゑへられぬ。 
林檎りんごが腐る、人は死ぬ、 
最後のふみが人を打つ、 
わたしは君をかなしまぬ。 
    × 
いつもわたしのむらごころ、 
真紅しんく薔薇ばらを摘むこころ、 
雪を素足で踏むこころ、 
青い沖をばくこころ、 
切れたいとをばつぐこころ。