嵯峨の君を歌に仮せなの朝のすさびすねし鏡のわが夏姿 ふさひ知らぬ新婦(にひびと)かざすしら萩に今宵の神のそと片笑(かたゑ)みし × 凡骨(ぼんこつ)さんの大事がる 薄い細身の鉄の鑿(のみ)。 髪に触れても刄(は)の欠ける もろい鑿(のみ)ゆゑ大事がる。 わたしも同じもろい鑿(のみ)。 × 林檎(りんご)が腐る、香(か)を放つ、 冷たい香(か)ゆゑ堪(た)へられぬ。 林檎(りんご)が腐る、人は死ぬ、 最後の文(ふみ)が人を打つ、 わたしは君を悲(かなし)まぬ。 × いつもわたしのむらごころ、 真紅(しんく)の薔薇(ばら)を摘むこころ、 雪を素足で踏むこころ、 青い沖をば行(ゆ)くこころ、 切れた絃(いと)をばつぐこころ。